・琥珀の私意
今日も何事もなく、当たり前のように過ぎていくんだろう。
いつも通り、兄二人に見送られて学校に向かった。
今日はいい日。だから、苦手な授業も苦じゃなかった。
いつもより急いで学校から帰ってきたのは、母さんと父さんに会うため。約一ヶ月ぶりに仕事を終えて帰ってくる日だった。
期待を胸に玄関を開け、揃えてある靴を見てますます嬉しくなった。
ワクワクしていた僕は、異様な静けさに気づくわけもなく廊下を走った。
「ただいま…!」
待っていたのはただ一面真っ赤な部屋。
***
…寒い。
かなりの振動が全身に伝わって、感覚が戻ってきたことを知らされた。
馬蹄の音がと嘶きが聞こえて、ここが馬の背であることがようやくわかった。
(もしかすると、このまま落ちて死んでしまうんじゃないか…)
突然感じた恐怖に、自分を支える存在へとしがみつく。
懐かしい匂いがする。
少しだけホッとして、ひどく重くなった瞼を押し上げると
綺麗で勇ましい一羽の鳥が目の前を横切った。
堕チル
さっきまでの窮屈さは無くなり、身体が浮く感覚に気持ちよささえ感じていた。
触れていた温もりは、あっという間にかき消えて、いよいよ意識が遠のいていく。
小さくなっていく緋珀の声は耳に入ることはなく、変わりにきこえてきた声は
『本当の幸いをみつけなさい』
…知ってる。この声は、だれだったかな…。
ぼんやりと、せめて兄二人は無事であるようにと思った。
待つのはきっと、何もない黒い世界。
青い光は、きっと幻。
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