[携帯モード] [URL送信]
・琥珀の私意

 今日も何事もなく、当たり前のように過ぎていくんだろう。

 いつも通り、兄二人に見送られて学校に向かった。
今日はいい日。だから、苦手な授業も苦じゃなかった。


 いつもより急いで学校から帰ってきたのは、母さんと父さんに会うため。約一ヶ月ぶりに仕事を終えて帰ってくる日だった。

期待を胸に玄関を開け、揃えてある靴を見てますます嬉しくなった。

ワクワクしていた僕は、異様な静けさに気づくわけもなく廊下を走った。

「ただいま…!」





 待っていたのはただ一面真っ赤な部屋。


***


 …寒い。

 かなりの振動が全身に伝わって、感覚が戻ってきたことを知らされた。
馬蹄の音がと嘶きが聞こえて、ここが馬の背であることがようやくわかった。

(もしかすると、このまま落ちて死んでしまうんじゃないか…)

突然感じた恐怖に、自分を支える存在へとしがみつく。

 懐かしい匂いがする。

少しだけホッとして、ひどく重くなった瞼を押し上げると
綺麗で勇ましい一羽の鳥が目の前を横切った。




 堕チル




 さっきまでの窮屈さは無くなり、身体が浮く感覚に気持ちよささえ感じていた。
触れていた温もりは、あっという間にかき消えて、いよいよ意識が遠のいていく。

小さくなっていく緋珀の声は耳に入ることはなく、変わりにきこえてきた声は

『本当の幸いをみつけなさい』

…知ってる。この声は、だれだったかな…。



 ぼんやりと、せめて兄二人は無事であるようにと思った。






待つのはきっと、何もない黒い世界。


青い光は、きっと幻。

[*前へ][次へ#]













2/6ページ


あきゅろす。
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!