純情boogying
3
「……わざわざ買うんですか?」
『え?』
俺が色々考えていると、俯いたままのアキが控え目にぽつりと呟いた。
「……俺の親があんなに迷惑かけといて、俺、これ以上南さん達に面倒かけたく無いです……」
……健気スギる……
『あ、いや、あのなぁ……
わざわざ買う、とかじゃ無くて……そう、義務なんだよ義務。
うちの店、ボーイには全員制服支給する、って言ってあるから。
雇用者にはそれを守る義務が発生するから。うん。』
多分。
「……そうなんですか?」
『そう。
だから気にしないで働きな。……で、ここが厨房ね。』
従業員用の通路からフロントに繋がっている壁の窪みに手をかけて、横にスライドさせて中に入った。
壁と同じ素材を使って作ってあるこの扉は、薄暗い店内じゃよく見なきゃ繋ぎ目も見えない。
「……仕掛け扉……」
『ん?』
「え、いや、あの……
……からくり屋敷みたいで、何か面白そうだな、って…………スイマセン忘れてください……」
かぁ、っと耳まで赤くして俯くアキ。
時折見せるこんな発言や行動が歳より幼くて可愛い。
『アハハ。
……でな、あそこに店内に繋がってるカウンターが見えるだろ?
注文入るのも作ったもん出すのもあそこ使うから、覚えといてな。』
「ハイ。」
『あと……は、使った皿やグラスもそこから入ってくるから、手が空いたら洗っといてくれ。
グラスは洗った後よく磨くんだけど、あそこに布とか置いてあるからそれでお願いな。
あと、客に出すグラスと従業員が使うグラスはサイズが違うんだ。客が使う方がでかいの、な。
「ゲスタン」「ホスタン」言われるから、頼まれた数分出してやって。……「ゲストのタンブラー」と「ホストの使うタンブラー」の略、な。分かるよな?
入れる酒によって使うグラスが違うのもあるけど、そこに置いてあるファイルにどれがどれか書いてあるから。』
「はい。」
これだけ早く言っちまっても大丈夫なんだろう。
職業柄人のちょっとした仕草や表情から考えてることくらい分かるが、コイツはこんなに沢山の情報を言われてんのに全部理解している。
どう見ても全然「出来ない」なんて感じはしない。
まぁ実際出来るんだろうな。
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