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純情boogying
目を逸らすことは許さない





『オイ、中入れよロリコン。』
ガッ
「いって!」

ドアガードを外して玄関を開けたら、こちらに背を向けて膝を抱えて蹲っていたジンの尾てい骨にドアの角を思い切りぶつけてしまったらしい。

ドアノブ越しに結構な衝撃が手のひらに伝わったが、罪悪感は無かったのでそのまま言葉を続けた。
本来のこの部屋の持ち主が、普段は女がうっとりした目で見つめるそのお顔を涙でぐちゃぐちゃにして、情けないツラで俺を見上げてくる。


『聞こえなかったのか?楓君に話聞き終わったから、中入れよ。ロリコン。』


当て付けがましく最後に付けた一言に、ジンが複雑そうな表情をしてぐっと唇を噛み締める。


「……っ、うぅ……ごべんな、ざい……」

『謝るのは俺に、じゃないだろ?』


一言だけそう言うと、べそべそ泣きながらだが一応踏ん切りだか覚悟だかが着いたらしく、高そうなスーツを気にすることなく袖で目元をグリグリ拭いながら立ち上がった。

靴を履かせる間も無く外に放り出したのは俺だが、この季節に靴なしで御影石でできた廊下に立つのはさぞかし冷たかっただろう。
まぁ別に同情するわけじゃないが。こんな扱いをされたのも自業自得だ。


「かえで、は?」

子供みたいにマジ泣きするジンが、しゃくりあげる合間に恋人の名前を呼ぶ。

俺だって、こんなのマズイって、間違ってるって分かってる。
あの子と同じくらいの年の子供……女の子が、売春までしてホストに貢いでいるのを俺はこの街で何度も見た。
騙されていた事に気付いた時には取り返しがつかないところまで足を踏み入れていて、そのままこの街に沈んで行くのも。


でも俺は、あの子からジンを取り上げる事はどうしても出来なかった。
こいつの事はよく知っている、こんな風に惚れてるのは初めて見る。きっとこいつから手を離すことは出来ない。
そんな言い訳ばかり自分にして、社会道徳から目を背けている。


『約束しろ。』

「は?」

『約束しろ。絶対、あの子の事を幸せにするって。
不自由させるな。泣かせるな。束縛も禁止だ。親代わりになって、家族としてあの子の帰る場所になれ。
……お前から手を離す事は絶対に許さない。』


「……え?それ、って……」

『将来……楓君に、お前より大切な人が出来ても、成人するまで金銭的な援助はしろ。その時は楓君の前で泣かないで、何も言わず、静かに身を引け。
……今言ったことを全部守ると、約束しろ。』


水分の残る瞳が大きくまばたきをして、ジンがまじまじと俺の顔を見つめる。

少し視線を伏せたと思ったら、小さく声を漏らしながら大粒の涙をボロボロこぼして再度泣き始めた。

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あきゅろす。
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