純情boogying
本当の顔は
あれ程「もう来ない!」とぶんむくれていた客をどうやって懐柔したのかは本人に聞くとして、今の所俺は今日の売り上げがどうなるかの方が気になる。
……もしかしたら……普段朝の部にいないような客だし、昨日の詫びってことで普通よりは金落としてくれるだろうし……
これは……モーニング新記録行っちゃう……かも?
ジンの接客もいつの間にかレベルが上がってる。これなら今月はクリスマスと年末のイベントもあるし、売り上げもかなり期待できるかも、と帳簿と電卓引っ張り出して睨めっこを始めた。
『……年始に店の改装だろ?看板も撮り直したいし、宣伝も入れるだろー?スタジオ代と広告に……』
収益は上がるが、店の改装もしなきゃだし出ていく物も多い。
出さなきゃいけない金額はある程度決まっているので、どのくらい売り上げが出たら収益が増やせるかについて、外から見るほど楽ではないホストクラブの経営に暫く唸っていた。
ホスト個人は客からマンションだとか車だとか服とかアクセを貢がれてる上に月の手取りが数百万行くこともあるからリッチな生活送ってるけど(ただし売れてるヤツに限る)
ホストクラブの経営となるとそうはいかない。
儲けから人件費と酒等の原価引いて宣伝もして色々な維持費や経費を引いた上で利益を出さなければならないからだ。
うーん、やっぱ店の改装とその間店開けらんないのが痛いな。
店も改装とは名ばかりの修繕だからなー。
上っ面綺麗だけどフロア以外酷いもんな、ここ。従業員通路はコンクリ剥き出し、床にカーペット貼っただけだし。
「また金勘定か?」
『……売り上げの心配させてた張本人が言う台詞じゃ無いからな、それ。』
鉛筆でぐしゃぐしゃと概算を書きなぐったメモ帳から視線を外して、いつの間にか部屋に入ってきていたジンを見上げた。
ふと時計を見るともうすぐ9時だった。宣言していた通りもう帰るんだろう。アキが寝ている間に出てきたみたいだったし。
「なんだ、まだ会計上がってきてないのか。
根岸登喜子、モーニングで100万くらい使ったぜ?
まぁ、昨日の詫び含めてだろうけど。……なんか凄かったんだってなな?お笑い番組見てるみてーな見事な酔っ払いだったって聞いたんだけどさぁ。」
半分馬鹿にしたような顔で笑うジンに、店側なれど『あの客も可哀相に』と憐れみに似たものを感じた。
ただそれで本当に気の毒とは思わないし、罪悪感も感じない。
あの客はジンに恋をしている。確実にな。
金を出して、ジンに恋をしている。
その想いが永遠に叶わないってだけ。
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