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純情boogying

 



客はそれきり握った手を離さないまま固まった。

無理もないか、さっきの顔で直視されたんだ、暫くまともに物を考えられもしないだろう。





すぐに視線を逸らしたジンに、客が何か声をかけようとした時


「お待たせしました、ファーストドリンクとおしぼりお持ちいたしました。」


VIPルームの扉が開いて、プレートを持ったボーイとヘルプのホストが二人入ってきた。


運悪く、か?それともタイミング良く、か。
まぁ恐らく後者だろうけど。ボーイがヘルプのホストより遅く客のとこに行くなんて余程の理由が無い限り後で説教モンだ。
ジンに合図があるまで部屋に入るなとでも言われていたんだろ。


「よぉ、待ってたぜ。
ホラ、さっさと座れよ。……登喜子さん、こいつら、俺の後輩ね。弟みたいに可愛がってる奴らだから、良かったら目ぇかけてやって。」 


「池端学です、よろしくお願いします。」

「龍さんの後輩の牧田浩太郎です。以後お見知り置きを。」


二人が差し出した名刺を、まだ若干困惑した顔で客が受けとった。
ジンは既に、さっきの顔の上に違う仮面を付けてしまっている。

「頼れる先輩」になったジンの、いや、龍の表情にはもうさっきの熱は感じられない。


『……大した役者だよ、お前は。』


ほとほと感心してぽつりと呟いた。
ヘッドフォンを外して画面から目を外す。

まさか、客を怒鳴り付けてそのあと豹変、という使い古された手をここまで効果的に演出出来るなんて思わなかった。

ヤクザの事務所に出向いてまで客の代わりに頭を下げる事を臭わしたのはこの話の価値を上げるためか。成る程。


あと、あの表情。
昔から知っているのに、あんな顔見たことがない。
ジンに性的な感情を持ったことなんて一度もないのに、さっきの顔はめちゃくちゃ……何と言うか、すげぇクルもんがあった。


演技だと俺は知っているからそれだけだけど。
客の方はそうはいかないだろう。また、アイツに金を注ぎ込む財布の紐が緩むかな。

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あきゅろす。
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