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純情boogying
根源の帰宅
 

便箋を抱え込んで、しっかりと胸に抱いた。


……泣きすぎて横隔膜が痙攣して来た……

顔を洗おうと、手紙を鞄の中に入れてた時だった。





がたがたん、


玄関の方から音がした。



……あのクソ女通夜にも出ねぇで初七日過ぎてからノコノコ戻ってきやがって。




「やぁ〜だぁ、美姫(ミキ)酔っちゃったぁ。」


こうなったら顔洗ってる暇なんて無い。
鞄抱えて、和室出てすぐの階段の下に立ったら、数m離れた玄関に
男にもたれ掛かりながらしなを作るドラム缶……または、古タイヤの巨塔がそこにいた。

こちらを改めて、呂律の回らない舌で何かをまくし立てる。


「アンタ、何、そこ突っ立ってんのよ。」


アンタ……アンタ、か。



……俺は、記憶の限り、こいつにまともに名前を呼ばれた覚えが無い。型式名詞。


区役所に行けば、俺の名前が[アンタ]か[おまえ]ぐらいには登録されてるんじゃないかと思う。

学校でもこの外見から気持ち悪い、って言われ続けて友達なんかいなかったし、(良くて「ヲタク」か「眼鏡」、教師の目が無ければ「秋づ菌」だった)俺の名前を呼んでくれるのなんて和子さんくらいだった。


「美姫さん、あれ、誰?」

「あらしのぉ、……息子。
可愛いげ無いでしょ?あたしにぃ、ち……っとも似てないのぉ……」


すげぇなお前俺の事けなしながら遠回しに自分の事自画自賛してたぞ。


「あ、男なんだ。」



悪かったな。


その女が毎月毎月勝手に生活費使い込んでくれたお陰で栄養不足で発育不全で身長152しかねーし全身ひょろいし髪なんて自分で切るしかねぇーからざんばらの長髪になっちまぅんだよ。




「お前……何よ、その荷物。」 



『……出ていくんだよ。すぐどく。じゃあな。』



横を通り抜けようとしたとき、俺の頬が派手に鳴ってかけていた眼鏡がぶっ飛んだ。

髪の毛が空に広がり、頭の隅で、あぁ、今の俺端から見ればかなりの所でホラーだろうなぁ、と冷静に考えていた。


壊滅的な視力の所為で、矯正器具を失った俺は一気にぼやけた視界に腹やら背中やらに降り注ぐ痛みを取り敢えず甘受するしか無くなる。

喉を込み上げる胃の中身と衝撃に堪えながら、手探りで眼鏡を探しながら床を這っていた。

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あきゅろす。
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