純情boogying
2
和子さんが、あの細い肩に乗せて守ってくれていたものが既に崩れてる気がした。
母親の部屋の鍵を壊せるものはないか、と。
自分の部屋に入って、本棚から古い辞書を掴んで踵を返した。
震える両手で本を掴んで、まっすぐ振り下ろしてドアノブを壊した。
露出した金具に指を入れて、心臓が痛くなるような、この後の最悪の展開を想像しながら扉を、開けて、、、愕然とした。
あんなにあった服も、所狭しと置いてあったブランド物の靴もバッグも全てその姿を消していたから。
震える指先で、鏡台の前に放り投げてある見慣れた和柄の……和子さんのポーチの中身を漁った。
中には通帳と印鑑が乱暴に突っ込んであった。
震える指先で、恐る恐る通帳のページをめくる。
1番新しいページを見て、心臓が、……あれほど煩く鳴ってた心臓が一瞬、止まった。
『残高……1859、円……?』
怒りよりも、情けなさが込み上げて来た。
和子さんが、日々の食事の代金にも事欠くほど金を使い込んでいたこの女は、和子さんが亡くなった翌日彼女の口座から万単位の金を一円残らず引き出していたのだ。
……おそらく、通夜から今日まで……あの女が帰って来てないのはその所為。
きっとあの馬鹿は外で湯水の様に金を使っている。
なんで、なんで、俺の親はこんなんなんだろう。
授業参観も、遠足の弁当も、保護者面談も、全て和子さんが面倒見てくれて。
なんで、和子さんが死んであの女が……和子さんに迷惑かけ続けて心労貯めさせた俺の母親が生きているんだろう。
鏡台の上に、あのバカが行きつけてたらしいホストクラブの領収書と、そこと提携してるんだろう、ホチキスで留められた同じ金額の街金の借用証が数セット散らばっていた。
こっちは、返した方か。
なら、こっちは……?
かき集めた、数枚の形式ばった紙。……金銭消費貸借契約書、と書かれたそこには、「借主」としてクソ女の名前が、受領した金額欄には情けなくなるくらいの大金が記されていた。
数枚を合計すると、軽く計算して一千万を超えている。
そして、確実に、今はこれ以上に膨らんで……ただただマイナスを大きくしているだけだろう。
いや、利子が膨らむだけならまだいい。
だって、返済の期日は……1番最近の日付で3か月も前の物しかないから。
あの女がやりそうな事、何だ……何だ、考えろ。想像しろ。
あの馬鹿が金を作るために安易にしそうな事は何だ?
貯金の他に、価値のあるもの。換金できそうな物。
あいつが持ってたブランド物の他に、一つ思い付いて急いで部屋を出た。
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