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純情boogying
これは、夢。
 

「楓さん、ありがとうね。」


最後にそう、呟きみたいな小さい言葉が聞こえて、さっきまでそこにあった和子さんの姿は消えた。



御礼を言うのは、俺のほうなのに。
感謝してもしきれないほど貴女は俺に色んな事を教えてくれたのに。


貴女の存在だけが俺の今までの人生の中で唯一の幸せだったのに。






無意識に過去形を使っている自分に、和子さんが亡くなったことを思い出した。




あぁ、これは夢の中なんだな、と。


自覚した途端、周り全ての風景がいつも俺が感じているような歪んだ異形の世界へと変わった。

とりまく空気でさえ気持ち悪くなる感触で

鼻から口から吸い込んだ粘着質の気体が器官を辿って行った先、肺胞を一つずつ絡めてねっとりと塞いでいく。脊髄までこのどろどろで満たされる気がした。



その吸い込んでるどろどろの中に含まれる微粒子に、嗅覚細胞があの女がいつも付けてる香水の臭いを嗅ぎ取って

身の危険を感じて瞬時に全身が硬直した。


――――ガンッッ


後頭部の髪の毛を掴んで一気に後ろに引っ張られ、そのままブッ飛んで背後にあった椅子を巻き込んで派手な音を立てて転がる。


間髪入れずに胴体目掛けて太い足が蹴り下ろされて、テーブルの足に後頭部ぶつけて呻いてた俺はその一撃を避けることも出来ずキレイに胸部に喰らってしまった。


肋骨が、激痛にミシミシと悲鳴を上げる。

叫びそうになるのを堪えて、上を見上げた。
俺を踏み付けてる張本人の顔を見据える。


「……アンタ……何よ。その反抗的な目。何してんのよ。」


嫌いな人間を嫌悪の対象と見て何が悪い。
褒められた事なんてしてないクセに評価だけ求めようとするんじゃねぇ。



「誰が産んでやったと思ってんのよ……ッッ!!」



誰も、頼んでない。


俺だってお前の子供なんかに生まれて来たくなかった。


いっそ生まれる前に殺してくれてたら良かったのに。



「アンタなんかねぇ、生まれてこなきゃ良かったのよッッ!!あたしに迷惑ばっかかけてぇッッ!!」


この女が激昂した後は、いつものパターンだ。

なるべく身を縮めて何も考えないようにした。


蹴られるとき、木製のハンガーで殴られるとき、急所を外すように受けるのだけ無駄に上手くなった自分がとても悲しかった。

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あきゅろす。
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