純情boogying
薄暗い闇
気が付くと、俺は薄暗い居間の中央に立っていた。
気温を感じないような温い室温に軽く身震いをする。
……なんだろう。どこか、別の場所に居た気がしたんだけど。
それも、気の所為だ、と自分でその可能性を消した。
この地獄は当分続くし、あの女が死ぬのはまだまだ先であろうし。
俺は交通事故や不治の病等天文学的な確率の幸運を待つほど世間知らずでは無い。
ぼーっとしてたら癇癪を買って傷を増やすことになる。
未だ靄がかった頭を無理矢理動かし、何をするべきか必死に思い出そうとした。
「楓さん?」
『…………かずこ、さ、ん……?』
喉で空気に凄い圧力がかかって、塊になって気管を塞いでいるみたいだった。
口から言葉が出る前に渇いた単語が周りの嫌な空気を含んでぼとぼとと下のカーペットに零れ落ちてそこにこびりつく。
『和子さん、……』
何でだろう。
いつも一緒にいてくれたこの人と、会うのがとても久しぶりに感じる。
永い時とてもとても会いたかった、そう思ってた気がする。
何で、何で……和子さんは俺といつも居てくれたのに。
なんで会いたい、なんて思ったんだろう。
この漠然とした不安は何なんだろう。
「……楓さん、」
『和子、さん、何でだろう。俺、スゴイ怖い。
和子さん、俺の心の中の大部分、大切なものが突然どこかにいって、一生戻ってこないんだ。
それが何だか判らないんだけど、和子さんが今ここにいるのがとてつも無く悲しくて、怖いんだ。』
『……和子さん……』
「楓さん……お願いだから、少しだけ、聞いてね。」
無理矢理搾り出した掠れた声を小さく制して、鳴咽を堪えてそれでも無理矢理もっと聞きたい、言いたい言葉を飲み込んで和子さんの次の行動を待った。
でも、和子さんがこれから言うことを聞くのがとても怖かった。
何かが全て終わってしまって、それきりもう二度と穴が開いたまま塞がらないような気がしたから。
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