純情boogying
午前1時
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ご来店ありがとうございました!!またのお越しをお待ちしています。
その時店内に残っていた従業員が、ホスト・ボーイ関係なく最後の客を送り出す声を上げた。
担当のホストが、見送るため客が着て来たコートを二つ折りにして腕にかけ、店外まで手を引いてエスコートしている背中が扉の向こうに消えるのを見て……店内の従業員に安堵感が広がった。
「お疲れー」
「……だりー……」
「うぜー」
「キモい……あの客キモい……」
「キモいならまだいいじゃん……俺の担当イタいし……」
「俺の客キモくてイタい……」
不自然に笑みを張り付けたままだった表情筋を手の平でぐに、ぐにと揉みほぐしながら背中を伸ばしている。
営業時間終了直後、自分の客に営業メールを送っていたホストの一人が目の端に捉えた人物に気付いて顔を上げた。
まだ幼さの残る20を越えたか怪しい顔立ちと、まだ着慣れていないスーツに、この職について間もないことがなんとなく見て取れた。
現に、今日自分がヘルプについたフリー客に送る営業メールも一斉送信で済ましている。
大元の文章はコピろうが個別に向けてメッセージを入れるのはこの世界では常識なのだが。
「あれ、ジンさん今日アフター無いんですか?さっき誘われてましたよね?」
『あー……弟が来てるから、って断った。』
どこか上の空でそわそわしながら、関係者入口をボーッと眺めるジンに、先程の返事の中にあった「弟」と言う言葉に首を捻る。
「あ、ジン……さん?今平気ですか?」
『ん?』
「始業前に言ってた……弟、って、誰です?」
ジンに学、と呼ばれていた男が控え目に言い出す。
しかもあの時は「今日連れて来た」や「出来たかも」など謎ワード満載だった。
『あぁ……今日から、ここに……』
住み込みで、と言おうとして言葉を飲み込むジン。
『……俺んちから通いで、ここで働くんだよ。飯とか作りに。』
既成事実作りやがったこいつ。
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