極楽蝶華
クソ真面目Part.2
行き場をどうしようか、と思っていた両手の手首を掴まれ、これまたごく自然に胴体に回されてしまって、
『…………ッ?!』
「ん?……どーしたんレオ。その顔。」
顔。
……目を見開いた茫然自失、といった表情の事か。
「……ユウ……」
「何?」
「む、村上……、抱っこ……ズル……」
「はぁ?ダメだよお前なんかが乗っかったら隆也さん重いだろー。」
『悠紀仁様……獅子緒が妬いているのはそっちではありませんよ。』
心底天然なんですね。
とても可愛らしいんですが……心配になります。
「ねー、隆也さん、……何か不自由してることとかありませんか?」
『……と言いますと?』
無意識なんでしょうが……悠紀仁様が私にもたれ掛かって首元辺りから上目使いに見上げられている。
私ですから良いものを、他の人間にされてはいけませんよ?
……こんな可愛い顔そこらに振り撒かれては困ります。
「ん〜っと、……着替えとか、お風呂……とか?」
『着替えに……風呂?』
「ハイ。
……大丈夫ですか?一人で出来ます?」
……悠紀仁様の性格の事だ。【不自由している】と言ったら絶対に自分が手伝う、と言い出すに決まっている。
『大丈夫ですよ?左腕は使えますし、少々痛みますが右手も介護が必要なほど不自由、と言うわけではありませんから。』
実際の所は着替えや入浴は一人では困難ですが。
……言える訳が無い。
「……そーですか?」
『はい。大丈夫ですよ。』
「……一緒にお風呂入ったりトカ、ちょっとしたかったんですけどー……。」
『いえ……本当に、大丈夫ですから。』
……止めてください。
理性や自制心は人より強いとは思いますが、好きな方……の、事を前にして、風呂場で……。
……駄目だ。
(←クソ真面目)
悠紀仁様が何も知らずに、私が……悠紀仁様の事を勝手に想っているから。
それは……卑怯だろう。悠紀仁様に失礼だ。
(←クソ……以下略)
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