極楽蝶華
2
寮の前の中庭。
真っ黒い……黒耀石の土台に、対照的な真っ白い大理石から幾筋もの水が降り注ぐ。
ここがベルサイユ宮殿のような気がする。
噴水と建物……外観的にはお似合いだが、寮がこんな豪華絢爛である必要はない。絶対に。
噴水の前のベンチに、やっとお目当ての人がいらっしゃった。
『奈緒先輩……返してください。』
「あれ?途中からいきなり場所変えたのに……速かったね。」
『俺のこと引っ張り回して遊ぶの止めてください。
そして早く返してください。』
「ただ、劇的な甘ーい再会には校舎の影よりこの中庭のほうが良いと思っただけだよ。」
『いえ、別に甘くなくていいですからね。
で、返してください。』
三 回 目 !!
「……悠紀仁は僕にまた会えて嬉しいとか、そういう可愛いことは言わないの?」
『言いません。』
……やめてください。その捨てられた子猫みたいな哀れみを誘う目。
こっちが悪いことしたような気になるわ。
「……悠紀仁。」
『なんですか。』
「可愛いくないから、眼鏡がある場所教えてあげない。」
……拗ねないでください。
黒いところを見ているこちらとしてはその影に潜む策略が恐ろしいれす……
「キスしてくれたら教えてあげる。」
ヲイ……
……アンタ……絶対、そーやっていちゃもん付ける気だったろ━━━━!!
でなきゃここに眼鏡が無い理由ができない。
『……無理矢理しないって言いましたよね?』
「悠紀仁からすれば無理矢理じゃないよ?」
……そーゆーことですか。わざわざそのための交換条件ですか……
『なんでまた男とキスなんかしたいんですか奈緒先輩は。』
「男、じゃなくて悠紀仁としたいんだよ。」
知 る か
聞くんじゃなかった……
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