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極楽蝶華
意外と神経質
 

 
「俺もう終わり。」



ぎし、と革張りの椅子を軋ませて後ろに寄り掛かり、頭の後ろで腕を組んでマホガニー製の机の上に長い足を投げ出した。




胸から摘み上げた煙草を口に銜えるが、中々ライターに火が点かず……ジッ、ジッ、とその音が苛々を増長させた。



「……しょうがないなぁ。
じゃあ、インクは注文して明日には届くようにしとくから……こっちの仕事はまた明日ね。
夜、寮でやる方はまだたっぷり残ってるからばっくれないでちゃんと来てよ?」



俊が自分の使い慣れた道具じゃないと仕事をしないのを知っている奈緒。

何を言っても聞かないのも知っているので早めに折れて労力の無駄遣いを防いだ。


「分かってる?ちゃんと来てよね?」

「はいはい。」


気もそぞろに煙を細く吹き出す俊に、声のトーンを落とした奈緒が冷たく呟いた。



「……来なかったら悠紀仁にテメェの性経歴事細かに教えてやるからな?」

「ッ……ハイハイッ!!
ちゃんと来ますスイマセン!!」


細められた瞼の間に本気を見て冷や汗浮かべて焦って否定する俊。


「まぁ、3時間も俊が仕事してたのがミラクルだな。
俺ももう帰るよ。じゃあ、晩飯後に寮の生徒会室でな。」

「……俺は悠紀仁から連絡来るまで仕事してきます。」

「あれ、珍しいねサボり魔の春日が。」


ニッコリと笑ったその瞳には他意しか無い。


「……どんだけ根に持ってるんですか……」

「テメェが決算会議サボってどっかの誰かとそこら辺でしけこんでた回数分、かな?」


大分根は深いらしい。

顔は笑っているががらりと変わった口調と声色に顔が引き攣る不動。


「……いや、……と。
俺明日の分寮に持ち帰りますから。今日のうちにやるんで明日来ませんね。」

「……また悠紀仁?」

「遊ぶ約束してるんですよ。」




「そう。じゃあ、部屋帰ったらパソコンのメールボックスチェック忘れずにね。」

「それ……は……」




この笑顔に何人騙されたんだろう。



多分部屋に帰ったら仕事が増えてるに違いない。

しかも大量に。


「……会計は大変だからね〜♪面倒で……」

「……また四則演算かよ……」


机の上を片付け始めた奈緒の背中を見て肩を落とした。

口は禍の元だね。


「まぁいいや俺部屋帰れば悠紀仁いるしー」


憎まれ口を叩こうとして、更に増えた仕事を想像して……口をつぐんだ。

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