極楽蝶華
出来るなら
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まどろみ始めた頃、いきなり悠紀仁の叫び声が部屋に響いた。
『どうしたっ?!』
俺の声が聞こえないみたいで、目を見開いて自分の身体を抱えて涙をボロボロ零している。
小さく、
「ヤダ、……やめ、ろぉっ……!!触んな、触んなっ……さわる、な……ッ!!!」
呟きながら。
『悠紀仁っ!!』
強く抱きしめて、耳元で何回も何回も名前を呼んだ。
焦点の合わない視線に、俺を映してくれますように。ただそれだけを切望しながら。
「……っ、不動?」
『そうだよ……俺。大丈夫。他に誰も居ない。ここは……俺の部屋だ。
もう平気だから。』
今日何回目なのか
大きな瞳から零れた水滴が、白磁器みたいな頬を流れた。
「な……不動……
聞いてくんねぇ?」
首筋にくっ付けられた唇が、小さく小さく囁いた。
『……もちろん。』
知らず、悠紀仁を抱く腕に力が込もった。
「俺……俺……」
涙混じりに吐息で押し出された
まるで誰かに助けを求めるような、悲痛な響き
「男に……おんなじ男なのに、俺、無理矢理……っ、ッ薬飲まされて、触られて……っ、。」
悠紀仁の喉から苦しそうに搾り出されたその言葉は
僅かに震わせた空気ごと
俺の心臓を握り潰した。
俺の腕の中で
俺が守れなかった所為で、
俺の好きなヤツが泣いている
なあ……悠紀仁。
俺、何したらお前は泣き止んでくれんのかな。
どうしたら……お前は、
それを忘れてくれるかな。
記憶ごと消しちまいてぇよ
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