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極楽蝶華
……お願い。
 



寝室に入って、悠紀仁がベッドの上に上がってのそのそと這い上がる。


起こしたままの上半身に、覆い被さってそのまま押し倒した。





ベッドのスプリングが軋む


キイ、キイと音を立てていたのが収まると、布越しにじんわりと体温が伝わって来た。



『もう……怖くない?』



一瞬、短く息を吸って肩が震えるのが分かった。



『ゴメンね。思い出させちゃったかな。』



顔の横で波を打つ銀髪に腕を回して指に搦めた。



「ちがっ……奈緒先輩は、悪くないっ……!!
謝んないで、ください……」



しゃくり上げながら、僕の背中に腕を回してぎゅう、ってしがみついてくる。



『……怖かったんだね。もう大丈夫だから。』



顔を上げて、瞼の隙間から滲む涙を口付けで拭った。


目の回りの薄い皮膚が桜色に染まっている


薄く開いた唇は、ふるふる震えて吐息零れている。


そのまま泣き出してしまいそうで、
悠紀仁の嗚咽ごと飲み込もうと躊躇する事なく口付けた。


「っ、ん……」
 

何回か小さい声が漏れた後、口を離す。


眼鏡が邪魔で、外してサイドテーブルに置いた。




「……顔近いです。」


『だって、眼鏡無いから見えないんだもん。』



嘘だけどね。

そこまで視力悪く無いし。




「……キス、は……嫌です。」


『僕としたくない?』


「キスが嫌なんですよ。」


『僕は悠紀仁としたい。』



覗き込む瞳が、戸惑う様に揺れた。



『普通は男同士でしないし、友達でもしない。知ってるし、分かってるけど僕は悠紀仁とキスがしたい。』


それ以上の事も。



『悠紀仁は僕とキスするの……嫌?』


「……キスが。」


『……どうしても?』



「…………。」



『……イヤ?』


「は、恥ずかしいじゃないですか……」



伏せ目がちな瞼をよそに、ゆっくりと距離を詰めていく。


それに併せて、声を落として至近距離で囁く。




『駄目……?』


「………だって、」

 

『………お願い………』





返事を聞く前に、悠紀仁の頭に手を回して深く口付けた。

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あきゅろす。
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