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極楽蝶華
で、ここ、どこ。
 

かなり豪華な部屋に連れて(引きずって)来られた。


『……何処よ?ここ。』


「HR棟の生徒会室。」



……また無駄に金かけてますねー。
管理棟に飽き足らずこの棟にもあるんですかそうですか。


あっ、つーかそれより……

『何?いきなり。』

ほんとに。



「……何、……じゃねぇよ……。朝……いきなりいなくなって……」


『……悪ぃ。怒ってんのか?』

お礼言ってねぇしなー。

「……、違ぇよっ!!……もう、会えなくなるんじゃないかって……また、逃げてったのかと思って……
 ……俺、お前の名字も知らなかったんたぞ?」



すごい真剣な目で真っ直ぐ見つめてくる。

悲痛を浮かべた顔……


『……ごめん。』


こんな心配かけて申し訳ない……

まぁちょっとし過ぎ、とも思えるが。 



俊の手が眼鏡に触れる。

心配かけた、という負い目があって『やめろ』と言う気概を削がれてしまった。


ぷちぷち。
手探りで軽くとめてた留め金が外されて、俊がカツラと眼鏡を一緒にソファの上に放り投げる。



視線を前に向けると、黒曜石みたいに深い真っ黒の瞳。

頬を両手で挟んで、真っ直ぐ覗き込んで来る。


「名前……」

『へっ??』



「本名は、ユウじゃなかった……。なんて読むんだ?」



『ユキヒト……だけど。』


「悠紀仁……。分かった。」


大切なものを噛み締めるように、なんでか、大切な言葉を紡ぐように


もう一度小さく悠紀仁、と呟かれて、腰と後頭部に手が回り抱き寄せられた。


……何すんだオメー。


「もうどっか行くなよ……」



『……分かった……だから離せよ。』



耳元で搾り出すような……苦しそうな声が響いて、俺は突き放す様な事が言えなかった。


ぎゅう、と抱きしめられた腕の中は、こいつの寝室で嗅いだ煙草の匂いがした。


「……どっか行くな。」


『分かったってば。』


縋るように抱きしめて来た腕にも、何と無く慨知感を感じた。

心地良い夢の中、包んで来た体温に似ていた。

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あきゅろす。
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