極楽蝶華
また、いなくなった
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朝起きて一番最初に気付いたのは腕の中に誰も居ないことだった。
『……ユウ?』
ユウがいたであろう場所……俺の隣はとっくに熱を失っていた。
『もう起きたのか?
ユウ。……何処だ?』
人気の無い部屋に、自分の問い掛けだけが響いて。
段々、胸が苦しくなるような……腕の中から失った温もりに、鳩尾の辺りがぎゅぅ、って苦しくなって嫌な焦燥感が心臓を締め付けた。
足を踏み入れたリビングに残ってたメモ。
嫌な予感は、ムカつくくらい綺麗に的中して……手に取った紙がユウがもうここを去った事を告げていた。
本人の外見に似合わず、少し幼くて崩れた字。
最後に書かれてる顔を模した記号列。
全体的にフランクなそれは、俺を友達と見てくれたからなのか。
でも、だったら、なんで。
昨日の夜までここにいたのに。
腕の中で、小さく寝息を立てる華奢な体躯を抱きしめた感触をまだ覚えてるのに。
……薄く開いた唇に口付けて、そこにある俺が付けた歯形が熱を持ってて、ガキみてぇだが満足感感じた事まで覚えてるのに。
今日は学校があるし、部屋に帰るのは当然、なんだけど……
いきなりの消失感に頭の中がすべて蝕まれた。
『ユウ……ユウ……っ!!』
大切な物を無くした子供の様にその名を呟く。
最後は悲鳴みてぇだった。
拳を叩きつけた壁の表面の木材が割れて、若干へこんだ。不思議と痛みは感じない。
ふ、と……
何かを思い付いたように顔を上げた。
『藤堂財閥の、息子……』
ユウを知っている、という事は、幹部クラスしか出席できない【Vogue】での集会。
あるいはプライベートでの付き合いか。
何れにしろ近しいものでないと本名まで知ってる訳が無い。何たってユウのチームのメンバー締め上げても言いやがらなかったモンだからな。
名前は覚えてないが優斗に聞けば解るだろう。
確か一年……。
そいつを問いただせばユウのクラスが解る。
『……ぜってえ見失わない。今度は……』
ケータイを開いて、理事長室に繋いでただじっと待つ。
呼び出しコール音が、酷くじれったく感じた。
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