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極楽蝶華

 



「……ユウ?」


この学園で


俺の事をそうやって呼ぶのは





いまんとこ一人だけ。




「……おい……っあ、待てよ!!」

俺は静止を振り切って全速力で走り出した。病み上がりだとか構っちゃらんねぇ。




寮から随分遠くまで来てしまっている。恐らく……っつーか絶対に、追い付かれる前に付くのは無理だろう。
更にヤバい事に上手い策も浮かばない。



その上マズイ事にまだ自分の伝達した情報通りに動かない四肢は、思ったより早くに俊の射程範囲内に入ってしまっていたようだ。


走り出して数十秒、歩道を照らす外灯が等間隔に並ぶ夏の夜道。
流れていた景色が突然つんのめる。


後ろからいきなり腕を掴まれて、強く引かれた。




「……っ、逃げんなよ……」


悲愴を浮かべた顔が、歩道脇の外灯に照らされる。


『……っ、はっ、は……何の用……だ?』


こんくらいの距離で息上がるとか身体鈍りすぎだろ……病気って怖ぇ。


「どう、して……何で、部屋からいきなり消えたりしたんだよ……っ。」

俺の腕を掴んでる手に力が入った。

気を使っているのか、指は食い込んでいるが爪は立てられていない。


『あぁ……やっぱり、テメェの仕業だったわけね。
 目が覚めたら知らない場所でさぁ。……大低の奴は逃げ出すと思うけど?』


喧嘩含め、スポーツはアウェイでやるもんじゃねぇ。


「……心配、したんだよ……お前具合悪そうだったし、この一週間何処探してもいねぇし……!!」


『……え?』


なんで?


俺が病気だったからか?




『つまんねぇじゃん、喧嘩すんならイーブンな条件じゃないとさ。』
『また怪我が治ったら、な。』
俺の信念と通じる所があった所為で、俊が少し良い奴に見えた。

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