極楽蝶華
行ってくるね
□■□■□■□■□■□■
……軽い。
華奢な体躯を抱き留めてまずそう思った。
ちゃんと食べて……るな。
と、食堂での様子を思い出した。
何だろう……体質か?
綺麗で、華奢で、愛しくて……強い。
視線を下に落とし、半ば意識を失うように眠り込んでしまった悠紀仁を見た。
肩に触れる額は熱を帯びていて……緋色に染まった頬が何とも言えぬ官能的な色味を醸し出して。
俊の部屋の隣……副会長である自分が使っている部屋の扉にカードキーを通し、ぐったりとした悠紀仁を抱え上げ中に入って行った。
寝室に連れて行き、ベッドに寝かし付けてやっとひと心地つく。
汗で顔に張り付いた髪の毛を分けてやり、弧を描く利発そうな額に口付けた。
さっきまで自分自身のセーブすら効かなかったのに、いまはこんなに心安らかでいられる。
不思議だ。こんなに愛おしい。
手を加えずに綺麗に整ってる眉、紅色に色付いた瞼、影が出来るほどびっしりと生えそろってる長い睫毛、綺麗な鼻筋、
……視線が唇で止まった。
……歯型……
誰の物かは判らないが、自分以外に悠紀仁に触れた人間がいる。
腹部に残る鬱血の跡の事も思い出して嫉妬に似た……嫉妬よりも激しい感情が湧き出て来た。
パーカーの衿口から覗く白い胸元に顔を埋める。
―チュク―
花が散った様な跡が二つ、鎖骨の上に乗った。
『……チッ』
身体を起こして腕時計を見る。
タイムオーバー
机の上に置いてあったファイルを掴み上げ、部屋を出て行く途中……
もう一度ベッドに屈み込んで瞼に口付けた。
「ん……」
自分の下で小さく声が上がる……
顔をもう一度見つめて、かなり名残惜しく部屋を後にした。
[*前へ][次へ#]
[戻る]
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!