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極楽蝶華
身勝手envy



『久しぶりに』


帰ったら俺が仕事終わった後、現国の特訓やってやろうか、って。
そう言おうとした声がかき消された。

悠紀仁が苦手な登場人物の心情読み取る練習に、去年の試験問題と、問題で使われた「銀河鉄道の夜」を貸してあったんだよ。
「自分ならどう考えるか」
「作者は本当はどう考えていたのか」

そうじゃなくて、例え問題に「この時の作者の心情は」と書かれていても、「出題者はどんな答えを用意してるか」を考えてみろ、って。



俺はどっちかと言うと理系より文系科目の方が得意で、こうやって毎度悠紀仁に解説するのもアイツからは分かりやすい、と好評だったから。

逆に数学なんかは俺の方が教わったり、勉強会に誠達がまじることもあったけど、
……2人の時は、やりづらい、と文句を言われながらもお前を膝に乗せて勉強教えあうのが好きなんだよ。





「おうっ、ユウ久しぶりに来てんだって?」

「……っ、雅宗さん!」



少し立て付けが悪いらしいスチールの扉が大きな音を立てて開いて、長身の男が入ってきた。
悠紀仁は俺が何か言いかけていたことには気付かず、ぱっと視線をそちらに向ける。


……スーツ、を着ているが髪は長髪。細めのドレッドにしたそれを後ろで1つに結び、顔の横だけ何筋か垂らしたままにしている。
精悍な男前。色黒で、服の上から分かるくらいにはガタイがいい。カイチョー達……と同じくらいか?身長は。

外界に向かって口を開けたそこから、夏の夜のむっとした熱気が男と一緒に入ってきた。

悠紀仁が雅宗、と呼んでいた。……さっき話だけ聞いたが、コイツが前の代の総長とやらだろうか。



「ようジャリンコ、最近見なかったけど。」

「あー……転校したって連絡をきちんとするのを忘れて……
そ、そうそうっ!見慣れない顔9人いるから、そいつらが新しいガッコで出来た友達っ!
で、皆、この人が雅宗さん。俺の前の代のヘッドで、今は予備校の講師やって……いひゃっ!いひゃいれすよまひゃむねひゃんっ」

「ごまかすんじゃねぇ。」


見事に話題を逸らすことに失敗した悠紀仁が、力一杯頬をつねられて可愛い悲鳴を漏らした。


俺は、そいつが悠紀仁の頬をつねったのはもちろんだが、紹介として出てきた「予備校の講師」ってワードに、
『こいつも悠紀仁に勉強教えてたりしたのか?』と膝に乗せてる絵なんかが浮かんじまって……一瞬で不機嫌になってしまった。


分かってる……分かってるんだよ、自分でも勝手すぎると。
お前が自分で想像したんじゃねぇか、と。


今悠紀仁がこっち向いてなくて良かった……機嫌悪いとこ、あいつに見せないで済んで……

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あきゅろす。
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