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極楽蝶華

 



「……っ、なん、そんな、……ちょ、隆也さん……」

『ん?』


すぐ横から聞きなれた声が聞こえてきて、条件反射で悠紀仁の方に顔を向けた。


……この子がこんな傍まで来てるのに気付かなかったなんて、余程村上の発言の印象が強かったらしい。

だって……しょうがないと思う。中学の時から、欠伸したり背伸びしたり笑ったり怒ったり、お腹が鳴った所だって見たことないのに。
(高裏はよく、徹夜で作業してると鳴らしてるけど。その後顔を赤くして慌てるのが見てて面白い。)



普段無表情で動かないでいると血が通ってるのが不思議に思えるくらいの男が……あんな感情たっぷりに、身ぶり手振りまで交えながら「いかに自分が悠紀仁の事を好きか」を語るんだもん。

目も、意識も離せなかった訳だよ。



「そっ、総長!

こいつ近寄っちゃダメな人間ですっ……!!ヤバいって絶対……マジで……」



僕の感じたのと同じモノを、周りも抱いたらしかった。
……当然そうなるよね、悠紀仁も言葉につまるくらいドン引きしてたし……






……あれ、何でこの子はさっきの狂気じみた独白聞いといて顔赤くしてるの?



「た、隆也さんは……その、そーやって俺の事恥ずかしがらせて、楽しいんですか……」

「悠紀仁様、お聞きになってたのですか。」

「……何か、隆也さんがタツヤと険悪な雰囲気になってたから……
じゃなくて、手放しでメチャクチャに誉められんの、すんげー恥ずかしいんですけど……ワザと大袈裟に言ってませんか。」




……悠紀仁に聞かれたと慌てもしないあたり、さっきのは本気で自覚がないんだろう。恐い。

悠紀仁はどうして「恥ずかしい」程度で済むんだろう……



「私が悠紀仁様の事で虚偽を語る訳がありません!
わざわざ言葉にすると悠紀仁様が気分を害されるからと、口に出して言わないだけで……私が常日頃から感じている事を語ったまでです。
誓って、脚色などしていません。」



「嘘をついた」と思われる方が心外なのか、照れる様子もなく悠紀仁の真正面から言い切った村上に
ロシアの文学家ソローキンの短編集を読んだ後のような、
言葉にしづらい居心地の悪さと言うか……深くまで理解したくない深淵に意図せずして触れてしまった嫌な感触がした。

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あきゅろす。
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