極楽蝶華
それはもはや意地。
「これは……代々の総長が受け継いでる特効服なんですよ。
うちのチーム、極楽蝶って言うんですけど、その「蝶」のシンボルで。」
『そうなんだ……確かにすごい手の込んだ造りですね。……よく見ると光沢のある黒い絹糸で裾まで刺繍が入ってる。』
確かにこれを、悠紀仁が着たら似合うだろう。
フォルムはすごいゴツいけど造りは繊細、黒地に金と黒の刺繍。あの子の華奢な身体と白い肌に映える様がすぐに想像できる。
何故その「代々受け継いでる」特効服が飾られたままなのかと、その問いに周りは答えにくそうにお互いの顔を見合わせている。
「ホイ、こっちのテーブルにもお待たせ。」
「わーいトモさんありがとーございますっ!」
「うわ、美味そうっ!頂きます!」
『わ……本当にいい匂い。初めまして……えーと、トモさん?
悠紀仁……ユウの学校の友人で、久遠と言います。いきなり大勢で押し掛けてすいません。』
大皿を持ってきた恰幅のよい男性に、立ち上がりながらお辞儀をした。
シェフ用の白衣とエプロンを身に付けているが、髪の毛はシェフ帽ではなく黒いバンダナでまとめてある。……こだわりだろうか、それとも趣味か。
皿を置いた大柄な男性がこちらに向き直り、ニカッと笑みを浮かべて手を差し出してきた。
「そっか、ユウの友達か。ヨロシクな。」
『こちらこそ宜しくお願いします。トモさんの料理すごく美味しいと伺ってますから。』
握手した手は大きくガサガサで、実家が贔屓にしている職人達と同じ手をしている。
僕は冷え症なんだけど、トモさんの手はすごい暖かい。悠紀仁の手も暖かいよな……熱いくらいに。
ちなみに眠いと更に温度が上がる。で、一緒にほっぺも赤くなるのが可愛い。
「その特効服……な。
俺がチームの1代目だって聞いたか?」
『はい。……代々受け継いでるとか。』
「作ったの俺の時なんだよ。当時付き合ってた……今の嫁さんが手で刺繍して作ってくれて、1ヶ月かかった。」
『大作ですねぇ。
でも流石、すごい出来ですよ。』
「嫁さん喜ぶよ、今でも洋裁の仕事してるから。
そう……俺の体型に……今より20kg痩せてた18年前の俺のために作ってくれたんだよ。」
目の前に立つトモさんは、僕より大部背が高い。春日と同じくらい……かな?
『……サイズが合わなかったんですね、悠紀仁。』
目測だけど多分あの長さなら、トモさんでも丈が脛の半ばまで来るんじゃないかな。
……悠紀仁が着たら、確実に地面に引きずるだろう。
「前の総長の雅宗ってやつ、そいつまでずっと背ぇ高かったから……
俺も嫁さんも裾つめていいって言ったんだけどねぇ。」
『それで、悠紀仁の背が伸びるまで飾ってあるんですか。』
「悪いけど無理だと思うんだよね。切らないでも詰められるんだけどなぁ……。」
『……悠紀仁変なところで頑固ですからね。』
「そうそう。」
苦笑するトモさん。ムキになる様子が簡単に想像できて、思わず僕も笑ってしまった。
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