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極楽蝶華



「あーでもなんかわかる気がする。
総長とは違うタイプで、なんつーか、細かい気配りできるっつーか。」

『ホントですか?……なんか嬉しいな。そんなこと言われたの初めてで。』

「そう?友達とかにも言われたことない?」



嬉しいと、つい口に出てきたのは意識してのことではなかった。
学校で初対面の人でも大抵僕の事を知っている。普通の学生同士でも、うちの学校では「顔も知らない相手」が実家の家業にとてつもない影響を持っていることなんてザラだ。
初めて顔を会わせる相手でも、お互いに探るような奇妙な緊張感を必ず持つことになる。

俊と猛は同じ立場だった。幼馴染みだからこそ、昔から知ってるし……本人は気づいてないかもしれないけど、俊は実は不器用で溜め込みやすいのも、親からの圧力のせいで猛が俊にコンプレックス持ってるのも僕は知ってる。
……そう言えば口に出して言ったことは、ないけど。


一般の学生同士ならどうか知らないけど、僕にはその後親しくなる人なんていなかった。

……悠紀仁は、親や周りの事なんて関係なく僕の事を見てくれているけど。

 
家柄の事抜きで僕の事を見てもらえるって経験が少なかったから
それは、予期せず出てしまった一言だった。



僕の事を見てくれる「友達」はいなくて、「僕」が面倒見がいいと教えてくれる友達も学校にはいなかったから。



『……僕の学校は私立の進学校で、あんまり仲良くする雰囲気ないって言うか……

あぁ、そういえば、あの壁にかかってる……特効服、って言うんですよね?どうして飾ってあるんですか?
マンガでしか知らないんで、ああいうのってチームのリーダーがいつも着てるイメージなんですけど。』



うまい言い逃れが思い浮かばなくて、不自然に話題を逸らしてしまった。

不審に思われなかっただろうか、と言う僕の不安は杞憂に終わって、テーブルの全員が意識をそらして壁にかかった黒地のロングジャケットに向ける。

大判のアクリルに挟まれて飾られている、所謂「特効服」と呼ばれるそれには金色の刺繍糸一色で大きな蝶が背中に描かれていた。

袖を通すものがいないのか、パネルには埃もなく磨かれているが……しばらく眠っているような印象を受けた。
まるで、持ち主を待って沈黙しているように。

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