極楽蝶華
初耳
「敦、シートベルトしめて。俺捕まっちゃうから。」
「お、……悪い。
ごめんな、焦ってて頭からすっぽ抜けとったわ。」
二人のやり取りに無意識に自分のシートベルトを確認した。
つけてる。
そっかそういやさっき奈緒先輩が覆い被さってきて俺にシートベルトつけさせてたな。
ベルト渡すときにシュッて乳首にセクハラが入った気がするが、深く考えないでおこう。
「あ、改めて初めまして。俺、久保田智則って言います。
智則でオッケーっす。」
「初めまして、僕は久遠奈緒。久遠って呼んでください。下の名前女みたいで好きじゃないんで。」
『……ん?』
はじめて聞いた情報に、思わず嘴を挟んでしまっていた。
『奈緒先輩、でも俺とか俊達は名前呼びですよね?』
「うん、だから長い付き合いがあるか特別好きな子にしか下の名前は使わせないんだ。」
サラッと色男臭の溢れる台詞を吐かれて、思わず気が動転して顔が熱くなった。
ちょっと、何でそんな言葉がすぐに出てくるかなー。
慌てて不自然に目を逸らした俺をからかうように、「フフッ」と小さく笑った奈緒先輩が右側から俺の手に指を絡めてくる。
『っ、』
「ん?なに?」
顔を上げて奈緒先輩を見ると、視界の隅で指を絡めたまま涼しそうな顔で運転席と世間話の続きを始めた。
「えっと、皆さんユウさんと何繋がりの友達なんすか?」
「全員、悠紀仁……この子と同じ学校なんだよ。」
「っ?!
え、じゃあ、全員高校生?!!!見えねぇ!
つーかシュン未成年だったのかよ……しかも年下とか……」
「くすんだオレンジ色の頭の子だけは中学生だけどね。
まぁ確かに俊は……こっちではシュン、だっけ。ガラ悪いから気持ちはわかるなぁ。今日スーツだし余計に」
「……何人かは総長とタメくらいかな、ってのはいたけど、まさか全員コーコーセーとは……今の若い子発育めちゃめちゃいーなぁ。」
「智則さんおいくつですか?」
「大学2年、20なったばっか。久遠くんも最初俺とタメくらいだと思ってたよ。」
……そんな、ごく普通の会話をしながら、奈緒先輩は俺の手に絡めた指を怪しく動かす。
前の二人から死角になる後部座席のシートの上で、ぐねぐねと動く奈緒先輩の指先が俺の指の間とか、手のひらとかを絶妙な強弱で撫でていく……ただそれだけなのに、他に人がいるこの状況で秘め事をしているような背徳感を感じていた。
っ、だって……これ、奈緒先輩の触り方がおかしいのが悪いだろ、どう考えても……
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