[携帯モード] [URL送信]

極楽蝶華
まずはそこから
 

「よっしゃ、取れたーっ!」


ホクホク顔でスリッパをゲーム機の中から取り出す獅子緒先輩。
すかさず景品用の袋を広げたた店員が近寄ってきて「おめでとうございます」と口にする。

その横で静かに景品をゲットした村上先輩にも店員が袋を渡そうとした。

「ああ、大丈夫です。さっき取った物と一緒に入れますから。
ありがとうございます。」

既に左手首に掛かっていた袋の中に今取ったものを入れた。カラフルな袋からうっすら透けてる中身から推測するに今とった景品の色違いが既に入ってるらしい。

そしてネコ耳を付けたあの二人に(流石にごく普通にではないが)接客できる店員さんマジリスペクト。


営業スマイルを張り付けてはいるが時たま視線が頭上に動いてチラチラ気にしているのがまた笑いを誘う。


そして、村上先輩と店員のやり取りを見て暫く逡巡していた様子の獅子緒先輩が、自分に袋を持ってきた店員の首根っこを掴んで引きとめた。

「ひっ、……?!」


母親はロシア人だっけか。日本人の血が入っていると思えないほどデカ過ぎる体躯、顔だって彫りが深くて見た目完璧外人、ただでさえ近寄りづらい外見してるのに髪は真っ赤、人だって良さそうには見えない獅子緒先輩に首根っこを捕まれた店員の顔が一瞬で青くなった。


「ありがと。」


「……え?」

「袋、ありがとな。」

「あ……いや、ど、どういたしまして……」


一体何をする気だ、と身構えたら出てきたのは「ありがとう」で拍子抜けしてしまった。

……つーか、あの人も感謝というか、そう言う言葉を使うことがあるんだ……


「驚きました。」

「何が。」

「あなたも礼を言うことがあるんですね、悠紀仁様以外に。」

「人に何か貰ったりやって貰ったらありがとうって言えってユウが。」

「ああ、成る程。」


よ、幼稚園児かよ。
納得したような顔をして村上先輩が頷いた。……なんか、悠紀仁、リアルに動物の躾してるみたいだな……

昨日談話室での話を聞いてから、やっと今獅子緒先輩の人となりが確定した。
(今まで、騒動や噂話を人づてに聞いていただけだったから)
善悪の区別の着かないまま大きくなった力加減が出来ない4歳児、だ。

行動の全てが「悠紀仁が1番」で動いてるからたちが悪い。
しかし、談話室の一件も今まで見聞きした騒動も、この人をこの人たらしめていた周りの環境を思うと獅子緒先輩に対して「可哀相」と言う感情が浮かび上がってきた。


手加減するって知らなかったんだ。それを教えてくれる人もいなかったんだ。

悠臣さんも敦さんも、この人が悠紀仁の傍にいることは許している。
「根はイイ奴」と言っていたお人よしの友人の言葉について、もう少し考えてみる事にした。

[*前へ][次へ#]

91/191ページ

[戻る]


あきゅろす。
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!