極楽蝶華 3 つまり、カゴメさんの言う話はこうだった。 カゴメさんの家は新潟の結構な旧家で、跡取りだとか言い伝えだとか古くからの慣習が強く残っている家なんだそうな。 一人目の男の子は流産、その後女の子が3人生まれて、三女から13歳離れて生まれたカゴメさん。 カゴメさんの家はよく男の子ばかり急逝することがあり、「男子が育たない」時には女の子のような名前を付け、幼少期を女の子として女の子の服を着せて育てるという慣わしがあったんだそうな。 その風習も少し廃れていたのだが、何分3人目から一回り以上離れて生まれた末っ子で、一人目を流産していたと言うこともあり、元気に健やかに育つようにと慣習にならって「かごめ」と名付けて幼少期を女の子として育てた、と。 「そのうちこの格好が趣味になっちゃって。」 趣味ですか。 そうですか。 「あくまでも趣味だからね。外に出るときは男の格好してるわよ?」 『・・・・奥さんは何も言わないんですか。』 気になって聞いてみた。だって、こんな両方母親みたいな状況子育てに適しているかと聞かれたら、俺は【はい】とは言えない。 「何か、って言われたら【喜んでいる】としか言えないわね。」 ・・・・何がなんだかもう・・・・ 「ともちゃん、私の奥さんね、小説家なの。 ライトノベルの中のとあるジャンルで活躍中の結構人気な作家さん。クリエイティブな人って面白いことが好きみたいね。 私がこの格好してるの好きだ、って言ってくれてるし。」 「えっと・・・・それってB「言わなくて結構よ?」 奈緒先輩の言葉を遮ってカゴメさんが一本立てた人差し指を唇に宛てた。 「ユウちゃんをモデルにしたキャラクターが人気らしくてね、今その連載で本が4冊出てるから――本人に読まれるのが恥ずかしいんだって。」 ライトノベルの、とあるジャンルで、モデルにした本人に読まれて問題がある内容―――― ボーイズラブ、とかいうヤツか。略してBL。 昨今衰えが目覚ましい書籍文化の中、アニメ化もされるライトノベル達の売上に負けず劣らずその数字を伸ばすジャンル。 漫画もそうだが小説の売上も他の文庫本に大差を付けていた。 一応、現在大きな力となりうる市場を知っておく必要があったから名前とその大雑把な内容だけは理解していたが(他にもゲームや有名なサイト、オタクカルチャーと呼ばれるものをざっと)・・・・こんなところで役に立つとは思わなかった。 [*前へ][次へ#] [戻る] |