極楽蝶華 2 『最初に言うとくな。ごめん。』 「へ?」 べとつくアイスの所為か、指を広げて肘から前に突き出した格好のまま、整った顔がほうけた表情で固まった。 未だ水分の名残のある切れ長の目は大きく見開かれて、その瞳には「意味がわからない」の8文字が浮かんでいる。 『で、試験は合格な。 ……何言われてるかわからんじゃろうけど、とりあえず、俺はゆーの事従兄弟以上に思ってないし、恋愛対象としてこの先も見ることは有り得ない。それだけは分かっといてな。 あと、イタイ思いさせてごめん。』 深々と、心から頭を下げた。 もう演技をする必要はない。意識して刺々しく纏った雰囲気を消した。 「……どーゆーことっすか。」 『会うとると思うんだけど。はーさん。……悠臣さん。ゆーのお父さんの。』 急展開のこの状況を処理し切れていないであろう飽和状態の顔。だが透君は微かに頷いた。 それを確認して次の言葉を続ける。 『ゆーな、あんな調子でいっつもぽやぽやしてて周り全部に愛想振り撒いて、それが危ないんも気付いとらんけぇ。 はーさんが言い出したんよ。【悠紀仁の事好き、って人間が現れた時は、一旦恋人のフリして反応を見る】って。 上っ面だけ見とるヤツはモチロン弾くけど、あとな、試験も兼ねとるんよ。』 「……何の。」 『先に言うたけど、ゆーは超が付く鈍感じゃけぇ、そーゆー目で見る相手は周りにもダチん中にも山ほどいるらしいけど本人は全く気付いとらん。考えもしてないし。 友達としておるのはええよ。別に。俺もはーさんもなーんも文句ないけぇ。 けどな、【好き】なのは片っぽだけじゃろ。独占欲も、まぁわかるにはわかるけど……んなことされてもゆーは戸惑うけぇ。 将来自分の思いでゆーを傷付けそうなやつは友達にもしておけんのよ。』 伝えたいことを人間に伝えるのはすごい苦手だ。 なんじゃ、パソコン相手なら入力した指示を寸分違わず理解して期待した通り完璧に動いてくれるのに。 自分の言語能力の乏しさに閉口する。完全にマスターしたと胸を張れるのはプログラミングに使う言語だけだ。 俺は母国語である日本語さえ漢字が少々不自由なのに。じゃけんパソコンはボタン一つで変換してくれるんだもん。しゃーないやん。 [*前へ][次へ#] [戻る] |