極楽蝶華 悠紀仁は大変なものを盗んでいきました □■□■□■□■□■□■ 「悠紀仁さん!」 従兄弟の名前を呼ぶ声に店の入口に目を向けると、両手にソフトクリームを持った男が一人。 いや、タッパはそこそこあるけど男の子、かな。 チームでもないのにゆーの事さん付けしとるちゅーことは多分ゆーより年下じゃろ。 さっき来た時おらんかったけど……双子のにーちゃん達とエライ顔が似よるけぇ、兄弟なんか? すると……こいつが【透】君か。 まぁ、俺も人の事よう言えんけど、まったけったいな色した頭しとるのう。 値踏みも兼ねた俺の不躾な視線を無視して、透君はゆーの方へずんずん歩いていく。 ……無視っちゅーか、ゆー以外見えとらんような感じじゃな。 「悠紀仁さん……っ、酷いですよ!何で勝手にいなくなるんですか!」 「え……あ!!ヤッベごめん忘れてた!!ごめん!」 「わす……ッ?! ひ、酷い……ソフトクリーム食べたいって言ったの、悠紀仁さんじゃないですか!! 【帰って来たらぎゅーってしてほっぺにちゅーしてください】って頼んだらOKしたから俺は…… それを……忘れただなんて……ッ!」 「わ、悪い悪い……だって、こんなに大勢いるから、一人くらいいなくても気付かなくてさ……」 「うぅ…… ……俺って、悠紀仁さんにとってその程度の存在なんですか……? 忘れられちゃうような……?」 ……これもゆーに惚れとんのか。またアイツは色々面倒ごと持ってきよるわ。 何人のハート持って行きよったら気ぃ済むんじゃまったく。 確認をするためにけーに向けて人差し指をちょいちょい、と動かした。 身を乗り出して内緒話の体勢になる。 『……あの子。透君言うんじゃろ? そこの双子の弟やんなぁ。あの子もゆーに惚れとるんね。 ……透君ははーさんの試験通ったん?』 「いや、悠臣さんと会ったときはアイツはまだ微妙だったから……受けてねーな。 お前がやんの?」 『何じゃ。止めとけ言うつもりか?』 「いや、その逆。 ……泣きっ面見れたら楽しいだろうなぁ。」 けーは一人面白そうな顔をして、背もたれに身体を戻した。 勝手な事言いよって。俺は鬼じゃないけぇそんな酷い事出来んわ。 そもそもゆーの為じゃ無きゃこんな事やりたないけぇ。 さっきのこの人達は純粋な殺気と怒りだからえぇけど、嫉妬とか憎悪とか……、そーゆーのは向けられる方は楽じゃないけぇの。 でもしゃーないんじゃ。ゆーはこんなだし。 俺がしっかりせんとなぁ。 [*前へ][次へ#] [戻る] |