極楽蝶華 あくまでも確認 『……悠紀仁様、何か言いたいことがお有りですか?』 少し不機嫌に唇を突き出した悠紀仁様。 何がそんな表情をさせているのかは判らないが、あまり可愛い仕種をされるとこっちが持たない。 すぐに要求を聞いて、この密着した体勢をどうにかしたかった。 「…………もっかぃ。」 『……何を、ですか……?』 間違いを犯さないよう、慎重を期さなければ。 ……もし違っていたら、私はとんだ楽天的な思考を持った大馬鹿者、と言う事になる。 「……キス。」 『……それは、私にもう一度キスをして欲しい、と言うことですか?』 また、無言のまま肯定の意思表示があった。 見上げている悠紀仁様の唇に、目をつむって口付けを落とす。 目を開けると、さっきよりも不機嫌そうな瞳に咎められた。 『まだ、何か……?』 ぐ、と眉を寄せて、少し怒った様な顔をされた。 「………もういっかい。」 『キスを?』 「ん。」 「…………まだ、もう一回。」 悠紀仁様に言われて、口付けて、一層不機嫌そうに……でも可愛らしく目を潤ませた悠紀仁様に、また求められて。 何回かそんな事を繰り返した後に、泣きそうな声で今度は違うことを言われた。 「……違う、もっと……」 『もっと……何ですか?』 その泣きそうな顔のまま、唇を震わせて視線を逸らしてしまう。 もう終わりにしたかったのか、と歩き出そうとしたら、また袖を引かれる。 『……言わなければ、何もできません。』 悠紀仁様が求めていることが判らないのに、その要求に応えるのは不可能だから。 言ってもらえないと、判らない。 「……もっと。」 『もっと、……何ですか?』 「つ、……強く、して欲しかった。」 『……沢山、ですか?』 「……違う……。」 泣きそうな顔に、更に赤みが加わった。 色付いた目元はかなり煽情的だ。 『……言って下さらないと。悠紀仁様の口から。』 私は、特に……人の心を読むのは苦手だから。 あぁ、これなら、もっと兄や父に就いて……上辺だけの社交術では無く、人の感情や大切な相手との付き合い方について学ぶべきだった。 「……さ、さっきみたいに、……中に……してください……」 『……聞こえませんよ?』 口元に軽く握った手を充て、こちらを窺うように半ば泣きながらその言葉を零した。 [*前へ][次へ#] [戻る] |