極楽蝶華 夜は長い。 「だよねー。」 「ぐっ……ぇ。」 どうやら紅茶を抽れ終わったらしい奈緒が、ティーカップを傾けながら俊の頭に肘を乗せて寄り掛かる。 「お前ってたいした事してねぇのに口だけデケェ事叩いてんよなぁ。なぁ。……だろ?」 「……いや、最近は結構頑張……あだだだだだ」 「だ〜ろぉ〜?ん?」 最近立て続けの寝不足でブラックの制御が出来ていないらしい。 「…………だろ?」 「ス、スイマセンこれからちゃんとやりマス……」 首の筋握力でぎりぎりされてる俊が低く呻いて、やっと解放されてから渋い顔で首をさすった。 「俊。……こっち向いて?」 「な……何だよ。」 さっきとは打って変わって民衆(一般生徒)に向けている満面の笑みを称え俊の顎を指で持ち上げる。 長年培って来たやましいことに心当たりがあるらしく、俊はまともにその黒笑を正面から受け止められていない。 呂律が既に怪しい。 「俊……今夜は寝かさねぇから。」 「げぇっ!!」 =明日まで不眠不休で仕事上げやがれこのヤロウ。 詰まるところの本意を理解して、瞬時に顔を強張らせる俊。 「あ、もちろん僕は寝るよ?あと猛も寝ていいよ。 ……今日渡した分終わったら。」 「…………ワーイ」 ワーイ、と言いつつ残りの量を計算して猛は無表情だ。 「トイレあるし、着替えは置いてあるし、モチロン風呂あるし、ルームサービス頼むまでもなく食料なら置いてあるし。 ……明日の午前中に特別棟の生徒会室に移るまで缶詰で平気だよね?」 「「え゙っι」」 二人が固まるのをそっちのけに、奈緒がこの部屋唯一の出入口に近付いて行き……小さくロック音が鳴った。 「あ、そうそう俊の脱走の前科に備えてここの鍵ドイツ製の電子キーに換えさせて貰ったから。」 「げ……」 「嘘…………」 実は俊氏の特技【鍵開け】(ピッキングとも言う)は奈緒からの逃走により培われた物だったりする。 「さて……とりあえず明日まで、頑張ろうね?」 ……とりあえず…… 深く溜め息を付いて、二人とも軽く目を見合わせる。 ……夜はまだ長い。 [*前へ][次へ#] [戻る] |