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the globe(弱ペダ/東巻)
「巻ちゃん誕生日おめでとう!」
「…いや今日全然誕生日じゃないショ。」
「ああ知っている!」
「…。」
巻島はいつものように授業を終え、今日はバーテープを巻き直そうと寒咲自転車店の袋を引っ提げて部室へと向かった。
途中で小倉マーガリンパンに食らいつく田所に会って反対側から一口奪い、「バカめ!端には小倉もマーガリンも入っていないぞガハハハ!」と笑う田所のリアクションが面白かったので、少々上機嫌で廊下を歩いた。
そして部室の前に女子の軍団を見つけ、嫌な予感を覆すべく人だかりを掻き分けて行けば
自分の悪い予感の当たりやすさを再確認させられた。
逃げようかとも思ったが、自転車競技部の部室の前で大きな袋を引っ提げて仁王立ちしている東堂に目敏く見つけられ、冒頭にいたる。
「…とりあえず中に入れ。女子が煩いショ。」
ビッと指を指して女子に向かってお気に入りの角度のキメ顔を披露する東堂を無理矢理部室に押し込めて巻島が後ろ手に鍵を締めた。
「巻ちゃん…残念だがダメだ。他校の部室でそんな婬行におよんだとあっちゃあ箱根学園の…」
「んなわけねぇショ!!」
かなり真剣な顔で残念がる東堂に巻島が突っ込む。
「んで…なんでここにいるんだよ。誕生日ってわけわかんねーショ。」
「ああ、巻ちゃんの誕生日を一番に祝おうと思ってな!」
巻島が律儀に茶を淹れながら心底馬鹿にした目で東堂を見る。
「…じゃあ誕生日に来いョ。」
「誕生日では遅い!オレは一番早く巻ちゃんの誕生日を祝いたいからな!巻ちゃんの誕生日を一番に祝うにはライバル全てを下し、巻ちゃんのもとへ駆けつける必要がある!そこでオレは最も手っ取り早い、かつ確実な妙案を思い付いたのだ!それは今すぐ巻ちゃんを祝う事!誕生日では遅い!前日でも部内の誕生日会など不安要素は拭えない、ならば!オレは365日24時間巻ちゃんがこの世に生まれた事に感謝しているのだk…」
「くどいショ。」
「今からクライマックスなのに!」
長々とフリまでつけた東堂の演説をバッサリと切り捨てて巻島が珈琲をいれたマグカップを置いた。
「やっぱお前アタマおかしいショ。そんなんの為に箱根からワザワザ来たわけか?」
「そんなんとは何事だ!オレが世界で一番巻ちゃんを愛している事を証明する為ならば千葉など軽い!もっとも証明するまでもなく世界で一番巻ちゃんを愛しているのはオレだがな!」
巻島は高らかにお得意の王様笑いをする東堂を珈琲を啜りながら冷めた目で見やった。
馬鹿馬鹿しいと、そう思った。
この男のすることは全く道理にかなっていない、と。
自分は自他共に認めるリアリストだ。
ずっとそう思ってきた。
それなのに、それなのに何故
あの騒がしい男を見て体温の上昇を感じるのか。
巻島は再び珈琲カップを傾けて言うことをきかない口許を黒色の液体で隠した。
「巻ちゃん?」
「…なんでもねー。」
言ってやるものか。
そんな馬鹿馬鹿しい理由で会いに来てくれた事が嬉しかったなんて
「巻ちゃんどーしたの?」
「絶対言わねーショ。」
「ええ!?何を!?言ってよ巻ちゃん!」
「地球が逆回転したら言うショ。」
はい、だから帰れと巻島が追い出そうとしたが東堂は呑気に巻ちゃんの珈琲は旨いなぁなどとくつろいだ様子で座っている。
そして期待に満ちた目で巻島を見た。
「じゃ、巻ちゃん。思う様言ってくれ!」
「…いやだから言わねーっつってんショ。」
話を聞いていなかったのかと溜め息をつく巻島に、東堂が当然のように言う。
「何故?北極が上だと誰が決めた。」
ぽかんとする巻島に東堂が「だから、さあ!さあ早く!ほら!」と鼻息荒く近寄る。
「……クハ、」
馬鹿馬鹿しい、
そんな子供の屁理屈を真剣な顔で言う男も、
そんな安い言葉に
うっかり惑わされてしまった自分の心臓も。
馬鹿馬鹿しくて、
どうしようもなくて、
それでもこの空間が嫌いじゃないと思うのは
きっとこの地球が丸いせい。
「尽八ィ…」
地球は今も、逆回転を続ける。
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東堂は授業くらい平然と放棄して巻ちゃんに会いに来るといい。
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