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その花は何処(GEB/リンソマ)
「…リンドウ。」
空っぽの部屋にソーマの声が虚しく響いて消えた。
『悲しむ君が好き』と言う花言葉を持つ彼は今もなお自分を愛してくれているのだろうか。
きっと帰ってくると信じていても埃の目立つようになったこの部屋はソーマを暖かく迎えてはくれない。
いつもリンドウが座っていたお気に入りのソファーに腰を下ろす。彼はよくこれの角に座っていた。ソーマはその場所からぐるりと辺りを見回した。
手を伸ばすとタバコのストック場所に手が届いた。冷蔵庫も立ち上がる事無く開けられる。なるほどリンドウがお気に入りなわけだ。
脚が退化するぞと1人笑った。
珍しく見せたその笑顔をどう収めていいのかわからずに切れ切れに渇いた声が漏れた。
小さな声だったのだが廊下にいた奴に聞こえたらしくドアのロックを解除する音がした。あわてていつもの仏頂面に戻って少しだけ重くなった目を乱暴に擦った。
「あら、ソーマだったの?」
カツンとヒールの小気味良い音を響かせて前に下がったボブをかき上げながらサクヤが入ってきた。
「なんの用だサクヤ。」
気をつけたはずだが棘のある言い方になってしまった。
「ケンカしにきたわけじゃないわよ〜。ちょっと考え事したかっただけよ。」
「自分の部屋があるだろ。」
墓穴だ。オレだってここにいる。
サクヤが温かいような哀しいような目でオレを見た。からかうなとお決まりの台詞を吐いてその場を離れる。
「ソーマ…」
オレを呼び止めるサクヤを無視して廊下に出た。
サクヤが悪いんじゃない。
わかってる。
それでも今、サクヤと居たくない。リンドウの言葉を疑うわけじゃない。リンドウはオレを愛してくれてた。わかってる…わかってるんだ。
きっと…”リンドウは2人とも愛してた。”
それだけの話。
荒れきった自室は今のオレをそのまま見るようで苛ついて近くにあった缶を蹴飛ばした。
オレの部屋はリンドウがいなくなってから更に荒れた。
リンドウにぶつけられないものを部屋やアラガミにぶつけた。
『なんで出てこない。』
『オレだけ残していくな。』
『オレだけを愛してくれ。』
『誰かと一緒じゃ嫌なんだ。』
隣の部屋からくぐもった嗚咽と時折リンドウを呼ぶ声が聞こえる。
オレは堂々と泣く事もやつれる事もかなわない。
少しだけ、女であるサクヤが羨ましい。
堂々とリンドウと一緒に居られる。結婚も、子供を作ることもできる。
すべてオレには出来ない事。
蹴り飛ばした空き缶がカランカランと音をたてて転がった。
そんなに主張されなくたって虚しい事くらいオレが一番わかってる。
缶の音が止むまでただそれを眺めていた。
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