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編集長のおつかい6(十二番隊)




「すっかり日が暮れてしまったね。」

「そうですね。後は涅隊長ですか…」

「よかった。書き終わってる事はほとんど確実だね。」

涅の名を聞いてそんなポジティブなことを思い付くのは東仙くらいのものだと思いながら技術開発局の方へ続く廊下を軋ませる。
目的地が近付くと薬品の臭いがつんと鼻を突くが、それも数分と歩かない内に慣れて消えた。

都合よく涅が外出中でネムが取り次いでくれないものかと願いながら技術開発局の前に立つ。

すっと頭を下げ、自ら戸を叩こうとする東仙を制し檜佐木が場所を代わる。

「ふふっ…敵陣じゃないんだからそんなに心配してくれなくてもいいんだよ?」

「敵陣みたいなもんですよ。俺この間ここで謎の液体ひっ被って髪が真っ白になったんすから。」

「お護りします、って?」

「さっき宣誓しましたから。」

楽しそうに微笑む東仙に笑いかけてから扉を軽く叩いた。

「九番隊隊長東仙要、副隊長檜佐木修兵です。涅隊長は此方でよろしかったでしょうか。」

扉が勝手に開いたかと思うと中から現れた阿近が紙の束を差し出す。

「ご足労申し訳ありません東仙隊長、コレですよね。」

涅は留守らしく、技術開発局の中からはいつも通りの機材を弄る音と檜佐木には理解しかねる専門用語が飛び交っている。

「ありがとう阿近くん。」

東仙が安心したように微笑んで原稿を受け取る。檜佐木がその顔に暫し目を奪われていると、急に阿近に髪を鷲掴まれた上、技術開発局の中に引き摺り込まれた。

「ちょ!阿近さん!?痛いんですけど!?」

「東仙隊長コイツ5分借ります。」

「は…?」

驚く東仙をあろうことか廊下に閉め出し、阿近は檜佐木を技術開発局と言う名の魔窟に閉じ込めた。
まだ驚きの色しかない目を向けると、阿近が片方の口角を吊りながら煙草に火をつけた。

「おい修兵、いいもんあるんだがよ。モニターになる気ねえか?」

阿近がにやりと意味ありげに笑って、懐から細い試験管を取り出す。白い丸薬が五つ六つ入ったそれをカラカラと振りながら楽しそうに煙を吐いた。

「なんすか…ソレ。胃薬?」

「此処にマトモな薬があると思うのか?」

檜佐木の探りを入れる冗談に得意気に口許を歪めてニヤつく。
煙草を口に咥え、阿近はその手で下世話な印を作って見せた。この手の話で薬を見せてくるという事はと檜佐木は溜息混じりに首を横に振った。

「…そんな危ないもん、隊長に飲ませられないっす。」

「まだ何か言ってねえだろ。」

「所謂媚薬でしょ。」

「まぁな。だがそこらの馬鹿が造った紛い物と一緒にすんな。コレにはこの2週間の俺と鵯州の血と汗と悪ノリおその他の変な汁が凝縮されてんだよ。」

あからさまに嫌な顔をする檜佐木から体を背けて煙を浴びせぬように壁に向けて紫煙を踊らせる。
驚いている様子はなく、むしろ予想通りの反応に喜んでいるようだった。

「安全面なら心配するな。リンで散々試したからな。まず死にはしねぇ。」

しばし考えて壷府と言う小柄な死神を思い浮かべた。その苦労を心の中で労いながら阿近に目を向ける。

「だがリンには既に様々な薬が投与されてるからよ、まっさらな身体に入れたらどうなんのか非常に興味があるってわけだ。」

そう言うと阿近は檜佐木先程の試験管を強引に握らせ、ニヤっと笑った。

「金はいらねぇ。そのかわり結果は正確に報告しろよ。」

「…ざっす。」

いやに早い心臓の動きは最早獣のようなそれで、哀しいかなただの男である檜佐木に抗う術はなかった。




「失礼しました。」

引き摺り込まれた時よりも軽い音で扉が開く。
外に出ると東仙がぼうっとした様子で待っていた。


「大丈夫だった?…どうした檜佐木?ずいぶん…」

「隊長今日、何かご予定は?」

「特に…うちくる?」

「…お邪魔します。」





檜佐木の懐で試験管に擦れたそれがからん、と音を立てた。





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あきゅろす。
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