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創作
歌舞伎町新喜劇2





「何飲まれますか?おいトモ。メニュー開け。」

「えーわかんないですー。トモ君のオススメは〜?」

来た!もう1番目に書いてあるやつを勧めろって教わってるからどんとこい!バッチリおすすめてやんよ。

「そーだね〜。じゃあこの…」

メニューを開いて愕然とした。


《  CARTE  》

 CHAMPAGNEs VINs
   Cafe de Paris
   Beaujolais
   Bordelais
   Chablia
 COCTEL
   Gin Fizz
   Highball
   Salty Dog





読めねぇぇぇぇぇぇ!!


ちっくしょう!馬鹿にしてんのか!カーテ?タイトルからわからん!

「トモ君?」

「あの…だから…カ…カーテ…カーテン…?」

「『カルトゥ』。メニューって事だ馬鹿野郎。…カフェ・ド・パリはいかがでしょう?お酒が苦手な方でも飲みやすいフルーツテイストのスパークリングワインです。今の季節ですと桜風味の物もご用意出来ますが。」

何語かわかんないメニューを晃造先輩がスラスラと読み上げ、かつ1つ1つ説明までつけてる。やっぱすげーな…。オレが馬鹿なのか?

「…ちぇ〜それが言いたかったの!!」

「かわい〜!じゃあそれくださ〜い!」



幸先がいいとは言い難いが気を取り直して、お姉さん2人分のピンクい酒を注ぎながらとりあえず名前を聞くところから始めてみた。


「蘭さんってゆーのー?よろしく〜!」

「トモ。言葉遣いに気を付けろ。」

「えーいーじゃんこーちゃん許してよ〜。」

「ったく。すみませんコイツ新入りで。」

どうやらオレが失礼なことをやらかし、先輩が硬派な感じで逐一先輩らしく指導するって流れでいくらしい。だからオレはなんか間違えてもそこそこ大丈夫って事だな。ナイス晃造先輩。





蘭さんのネイルが凝ってるだの梨子さんがオシャレだのオレのトークスキルをフル活用して盛り上げたところ気に入られたらしく、アルコールも入って2人とも上機嫌だ。

「トモ君おもしろーい!」

「えへへ〜そう?ありがとー梨子ちゃん可愛いから嬉しーなー。」

「えーアタシは〜?」

「蘭ちゃんも可愛いーよー。オレの彼女になってほしー!」

「キャァァァァ!なるー!」

…こんな感じでいいのか…?蘭さんを挟んで右にいる先輩を見るとこちらにニッと笑って『大丈夫』と言ってくれた。

2種類の意味で喜んでたオレにすでに目がすわっちゃってる蘭さんが絡んできた。

「ねートモ君おもしろいね〜。ちょっと漫才やってよ〜!」

むちゃぶりにもほどがあるだろ この酔っ払い!

「えー無理だよ〜!それにオレまだ蘭ちゃんと喋ってたいな〜!」

「アタシおもしろかったらまた来ちゃうかも〜!もちろんトモ君指名で!」

いやオレ臨時だし蘭さんが来たときは厨房に引っ込んで…

「いーじゃない!ねー晃もやってよー!」

「いや俺はそういう…」

「じゃーもう1本入れちゃう!」

「トモ5秒でネタ合わせするぞ。来い。」

嘘だろーー!?







「「どうも〜!!コウ&トモでーす!」」

「晃かっこいー!」

「トモ君頑張って〜!」


始まっちゃったよオイ。マジで大丈夫コレ!?ネタ合わせ所要時間正味3秒もなかったんだけど!しかも内容が「俺がボケる。お前ツッコめ。よし行くぞ!」…もう暗記出来るレベルだったぞ短すぎて。


既に汗だくのオレはお構い無しで晃造先輩がガンガン進めてる。…蘭さんと梨子さんにもっと酒飲ましとくべきだったな。


「ところでトモさん。俺バイトとかやってみたいと思ってんだよ!」

このお決まりのパターンでいくらしい。わかりやすくて助かった。トモさんのイントネーションか某サングラス司会者なのが気になるけど。

「いいじゃんかバイト!僕もやってみたいと思ってたんだよ。」

「ははは、トモ先月まで駅前の花屋でバイトしてたじゃねーか!」

「そういうリアルな事情いらないから!つかアンタなんで知ってんだ!?」

…ほんとになんで知ってんだ?止めた時期まで。オレ喋ってねーぞ…。

「まぁまぁまぁ。俺がストーカーだとかそーゆーのは今はいいじゃねーか。でさ…」

「よくないよ!?スト…ストーカー!?」

「だからいいじゃねーかそれは!今置いとこ!コンビニのバイトやらせろよ。」

「ええ〜…すごく置いきたくないんだけど…じゃあやりますか?」

「ああそうしよう。じゃあ俺お客さん役やるからトモはバイト役やってくれ。」

「アンタがバイトやれや!!初心貫こうぜ!」

「カリカリすなや。ほんだら始めんで。」

「口調統一しろよ!!」



え?で、…何コレ…オレから進めんの?

「…あー客来ねーな。おでんの追加でもするか。」

どう出るのかチラチラみてると煙草の箱を拳銃風に持って転がり込んできた。

「手を挙げろォ!!」

「うわっ強盗だ!!」

「その会計台に頭を付けろ!大統領命令だァ…」

「ジャックバウアーじゃねーか!!来日記念に強盗してんじゃねーよ!」

「24時間営業のコンビニはここかァ…」

「無理矢理数字絡めてくんな!!」

「黙れ黙れェ!貴様早くこのボストンバックにおでんをつめろ!」

「おでんを!?何がしてぇんだ!カバンびちょびちょになるぞ!」

「汁だくで頼む…!」

「聞いてた!?びちょびちょになるっつったよな!?」

ボストンバックはさすがに代用品がなかったので動きだけでやってみた。

「つ…詰めました。」

「よォし…お会計お願いします…。」

「払うのかよ!!それもう強盗じゃねーよただの変な客だよ!!」

「俺は気が短いんだ早くしろォ!ミッションのタイムリミットが迫っている…!」

「ミッション!?おでん買うってどんなミッション!?」

「大統領命令だァ!!」

「パシリじゃねーか!!大統領何してん…」

「聞こえないのか早くしろと言っているんだ!!」

「ああはい!!…えーと1023円です。」

「貴様ァ!地獄へ落ちろォ!!」

「1024円です!!!」

「よォし…邪魔したな。ガチャッ、カランコロンカラン!」

「自動ドアじゃねーのかよ。コンビニだろ?なんで手動ドア?」

晃造先輩が髪型変えて再入店してきた。

「ウィン。」

「自動ドアになった!!今の一瞬でオレの店に何が!?」

「ハッハッハ!金を出せ!!」

「強盗しか来ねーのかこの店は!!ちょーちょーちょー!!駄目だよコウさん!アンタすごい失敗してるよ!」

「やっぱ俺コンビニのバイト向いてないのかなあ?」

「いや根本的に違うよ!!今のシュミレーションでコンビニのバイトの適性ははかれないもの!!」

「やっぱ俺女の子と喋る方が向いてると思うんだよな。そこでさ、今からホストやってみたいんだけど手伝ってくれよ。」

「うん。そのシュミレーション要る?オレ達現在進行形でホストしてると思うんだけど。」

「まぁまぁまぁ。それは置いとこ!」

「置いとかねーよ!?あとさっきのストーカー疑惑の一件も置いとかねーからな!?」

「ハハハ!トモは本当に面白いなあ。疑惑じゃなくてカミングアウトだろ!」

「オッケー。警察が到着するまで漫才続けよう。じゃあオレが女の子やるからコウさんホストな。」

「了解。そんな君の瞳に緑茶で乾杯。」

「シャンパン!!そこはかっこよくシャンパンでいこう!!お祖父ちゃんかアンタは!」

「シャンパンか…ねえ、シャンパンもいいけど俺のシャンパンボトルも飲み干してくれな…」

「下ネタじゃねーか!!…代われ。」

「パクリじゃねーか!!…代われ。」

「アンタもだろ!もういいよ。」

「「どうも、ありがとうございました〜!」」



「キャァァァァ!!すごーい!!息ピッタリ〜!!」

「もうコンビ組んじゃいなよー!!ハハハハハハ!!」



うけたーー!


酔っ払いは笑いのハードル低くて助かった。晃造先輩の方を見るとオレ達が漫才やってる間に蘭さんと梨子さんが飲み食いしたものを要領よく片付けていた。切り替え超早いな先輩…。


「んーそろそろアタシ達帰んなきゃ〜。またくるねー!」

「またね〜!」

「またのお越しをお待ちしております。今から私共は一旦引き上げまして、ボーイが次のご指名を承りに参り…」

「アタシはもちろんトモ君ーー!!」

「梨子は晃がいいーー!!」

「…ありがとうございます。」

「ありがとー蘭ちゃん大好き〜!!」

「キャァァァァ!!かわい〜!持って帰りたい!!」



送り指名もらって店から貰ったケータイのアドレスを交換して2人を玄関まで見送りにいった。

「またねートモ君!!晃さんとネタ考えといて!!」

「まかせなさーい!!今度は即興じゃないから頑張っちゃうよ〜!!」

「梨子さんお気をつけてご帰宅ください。…ご連絡、お待ちしております。」

「はいい…!」

晃造先輩が腰にくるような声で囁くと梨子さんはたちまちうっとりした表情になった。

「またくるね〜!!」

「バイバーイ!!」

「またのご来店お待ちしております。」



ふー。終わったー。

達成感に満ちた息を吐くと晃造先輩がオレの肩を掴んですっごい笑顔で笑ってハグしてくれた。それだけで心臓どころか五臓六腑飛び出そうになった。先輩の甘過ぎないモスクの薫りがふわりと鼻をかすめる。


「お前やったじゃねーか!!いきなり指名もらってよ!あの一見さんもううちの店が貰ったようなもんだぜ!」

「ほんとすか…?」

「ああお前すげーよ!初めてなのに頑張ったな!!」


先輩にベタ褒めされて嬉しいやら恥ずかしいやらでさっさと店に戻ろうと言ってしまったけど、晃造先輩は無視してギューギュー苦しいくらい抱き締め続けた。背中に手を回す勇気はなかったけど、それでも倒れそうなくらい幸せだった。

「…てかお前さ。あの2人組いつくるかわかんねーから厨房戻れねーな。指名もらっちまったもんな。」

「あっ…。」



「まっ、頑張れや!」


オレ今後もホール決定…。思ってたのとだいぶ違う事になったけど、晃造先輩の近くにいられるならそれもいいか。ニカッと子供のように笑う先輩を見てそう思った。



もう少しだけ、抱き締めたままでいてほしいと言ったらどんな顔するだろう。


先輩といられる時間が増えるなら、いつか気付いて貰えるかもしれないな。

そのときはどうか、今みたいに力強く抱き締めて欲しい。



きっと叶わない願いだとわかっているけど、期待するくらい
…いいよな。





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あきゅろす。
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