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キスをするなら早くして!の続き





 ついうっかりというやつです





真っ暗な階段を一人上がる。事務所へと続くそこは夜になるとわずかな明かりもなく、延々と続く洞穴の様だった。
もちろん出口が無いはずもなく、しばらく両足を交互に動かすとぼんやり明かりが見えて来る。ビルの一室、芥辺探偵事務所からその光は漏れていた。
その光にふらふら近づき、ベルゼブブははて、と首を傾げる。
まだ誰か居るのだろうか。こんな夜中に?

そう、もう真夜中。今日の仕事は厄介だった。
ベルゼブブは佐隈と共に、浮気調査を頼まれた。ターゲットが女性の為、ベルゼブブは魔界の姿に戻してもらいさっそく調査。その間芥辺は事務所で待機をしていた。簡単な仕事だと判断したらしい。
だが簡単どころか厄介だった。
ターゲットがベルゼブブにべた惚れしてしまい、数時間離さず浮気調査どころではなくなってしまったのだ。なんとか逃げ出したベルゼブブと佐隈だったが、もうとっぷり日が暮れていた。現地解散と相成った訳である。

芥辺にそのことを話さなければならない、と考えるだけでとてつもない恐怖に襲われるのだが、本当のことだ、失敗は佐隈のせいにでもして話を進めよう。

そんなちゃっかりしたことを考えながら、ガチャリとドアノブを引き部屋に入った。

「?」

きょろ、と見渡しても誰もいない。騒がしいアザゼルも居ないし、いったいどうしたというのだ。この明かりは何なのだろう。

「!」

歩きソファに近づくと一人の男が仰向けに寝ていた。本で顔を隠し、見えなかったが分かる、黒い髪、黒いスーツ、

「・・・アクタベ氏・・・?」

わずかに胸元が上下していて、ああ寝ているのだとベルゼブブは判断した。
そっと近寄り本を取る。至近距離で芥辺の寝顔が見られてベルゼブブの心臓は跳ね上がった。
ーうわ・・・。
さらりと前髪が横に流れ、目元もはっきり見えてしまう。こんなに無防備な芥辺は初めてだった。少し可愛い、とさえ思えてしまう。

「・・・」

同時にいけない行動に出たくなった。そうだ。いつも芥辺からしてくれるが自分からはしたことがない。寝ている今ならいいのでは?
そっと近寄り目を閉じた。
自分の金色の髪が邪魔だったので、耳にかけながら、近寄る、吐息、ああ、アクタベ氏。

「、ん」

触れるだけで胸がいっぱいになる。
たしかに唇の感触。芥辺のそれと自分のそれが触れ合っている、キスを、している。
ぶわりと体温が上昇した。恥ずかしい、でも、まだこうしていたい。そう考えていたら。

「・・・っにしてんだてめぇ!」
「!!!?」

両肩を掴まれぐぃっと勢いよく離された。驚き目を丸くすると鋭い瞳と目が合う。芥辺だった。

「お、起きていたのですか、?」

芥辺に睨まれびくびくしながらベルゼブブは問う。恥ずかしさもごっちゃになり、手が震えた。

「うっすらな。それよりてめぇどういうことだ」
「えっ」

ますます顔の影を濃くする芥辺にベルゼブブは動揺する。そんな反応をされるなんて、ああ、どうしたら。

「汚ねぇ口近づけるんじゃねぇよ」
「  、」

ああ、・・・どうしたら・・・。
胸に槍が突き刺さった。本当にそう思った。芥辺は、この行為を汚らしいと思って、いるのか。でも違う、ベルゼブブには言い訳があった。聞いてほしくて目線を合わせる。じわじわ何かがこみ上がってきた。息が詰まる、苦しい。

「が、がまんを、」
「あ?」
「がまんを、していたのに、酷いじゃない、ですか」
「?」

訳が分からない、とでも言いたそうに芥辺は眉を寄せた。
とうとうベルゼブブの瞳から滑り落ちる。涙だった。

「にしゅうかん、」
「!」
「にしゅうかん、がまんしろとおっしゃったじゃないですか」

芥辺とのキスを夢見て高尚な趣味を我慢した。時には我を忘れるほどに大好きな、あの趣味を。

「がまん、してたんです、すべては、アクタベ氏と、っく、キスを、するために、私は、私は、」

涙が止まらない。情けなくて、見られたくなくて、両手で顔を覆った。そして自覚する。キスを拒否されて、信じられないくらい悲しくて、切なくて・・・。自分はこんなに芥辺のことが、好きなんだ。

「はぁ」

芥辺の口から吐息が漏れベルゼブブはびくりと震える。両手で目頭を拭い泣きじゃくる自分に呆れてしまったのだろうか。

「!」
「それを先に言え」

そっとベルゼブブの両手を取り芥辺は、溜息混じりにキスをした。優しいキスだった。
芥辺のその行動が嬉しくて、また涙が溢れる。

「寝ている俺に二度とするな。俺だって人間なんだ。心が読める訳じゃねぇ」
「アクタベ氏、」

命令口調でそう言われたが、優しく手を握られ慰められている様な感覚に襲われる。いや、本当は不器用に慰めているのかもしれない。とくり、ベルゼブブの心臓が激しくなる。

「食ってねぇならもういいよな」
「っ」
「我慢していたのは自分だけだと思うなよ」

えっ?
驚き思考が無くなった。
そのほんのわずかな隙ににやり、人でなしのように芥辺の口元が歪みそのままそれを押し当てる。
事務所に響くリップ音を聞きながら、ベルゼブブは芥辺に抱き寄せられた。開けろとでも言うようにべろり、芥辺の舌がベルゼブブの唇をなぞる。

「!ん、んん、」
「はっ、」

薄く開けると芥辺の熱い舌が入ってくる。舌先が触れ合い身体がじんとした。深くまで探られベルゼブブはたまらなかった。ぞわぞわ何かが背中から駆け上がってくる。気持ちがいい。

「あぁ、アクタベ氏、」
「ふ、いい顔だな」

きっと私は今、とんでもない顔をしてるんだろうな・・・。じわじわ涙を浮かべながら、ベルゼブブは熱く呼吸を繰り返す。
その涙を芥辺の親指がすくい、そのままそれを赤い舌が舐めていった。

「!」

誘うようにぎらぎら、芥辺の視線がベルゼブブを捉える。ああ逃げられない?逃げたくもない。

「アクタベ氏、アクタベ氏、」

それだけが口を滑り芥辺にすり寄った。


どうにかなってしまいそうだった。




END
***
支部に上ry
長い・・・もっとアクベル読みたいです。ちくしょうべーやんかわいいんだから!原作欲しい。読みたい。


あきゅろす。
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