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SSS
月と二人


(いたみわけの話っぽいですが普通に読めます)






柔らかな光が窓辺から射して、虎徹はおもむろにカーテンの隙間から空を仰いだ。
闇色に浮かぶ、まあるい月の淡い輝きに虎徹は金色の瞳を細めて、小さく感嘆の吐息を零した。

「うわぁ…きれいなお月さんだな」

虎徹は思わずカーテンを開いて窓を開けると、身を乗り出して月を仰いだ。
まるで手が届いてしまうんじゃないかと思うほどの大きな月に、虎徹は無意識に腕を伸ばした。

「虎徹さん、何をしてるんです?」

不意に後ろから声をかけられて虎徹は声の主の方へと向き直った。
そこには風呂上がりなのかしっとりと髪を下ろした銀髪の男、ユーリの姿があった。

「ユーリ、これ」
「……?」

空を指さす虎徹にユーリは小首を傾げて、彼の元へと歩み寄る。
そうして彼の隣に立って、ユーリはとても大きな満月を視界に捉えることが出来た。

「これはまた、綺麗な満月だ」
「だろ?」

じっと空を見つめるユーリの姿に満足したのか虎徹は頬を緩めて笑った。
そしてまた先ほどのように月へと視線を戻す。
静かに。ただぼんやりと二人、満月を見つめる。
そんな穏やかな空間にいる虎徹を、ユーリは何気なく横目で見遣った。
漆黒に近い髪は今は月の光で淡い金の輝きを放ち、その表情はまるで憂いを帯びているように感じられる。
そんな虎徹の姿に、ユーリは彼が何処かに消えてしまうのではないかとそんな錯覚を抱く。
彼の側に居たい。
彼の哀しみを分かち合いたい。
彼の、孤独をこんな自分で癒せるのなら。

「り…ゆーり、ユーリ?」
「…え、はい?」
「どうかしたのか?」

意識の水底へと沈んでいたため、虎徹の声が耳に届かなかった。
ユーリはそんな自分に心の中で舌打ちをして何もないと左右に首を振る。
そのことで虎徹の指先が自分の頬に触れていることにユーリは気付いた。
夏ももう終わり、夜はだんだんと涼しくなっていく。
外気の空気に触れた彼の身体はいつの間にか冷えて、そして自分の身体も芯から冷えていることに気付いた。
全く、なんたる失態だ。そうユーリは思った。
こんな夜も遅くに、体調も気にせずぼんやりと月なんか見上げて。
ユーリは一度息を吐くと窓に手を伸ばして閉めた。
そのことに虎徹は何も言わず、ただユーリの姿をじっと見つめている。

「なあ、」

おもむろに虎徹が口を開いた。
その言葉はただ真っ直ぐで、ユーリは心を揺さぶられるばかりだ。
なんですか。そう何気ない風袋を装ってユーリは虎徹に訪ねる。
虎徹の金の瞳はただ純粋に彼を見つめていた。

「お前は、何処にもいかないよな?」

ゆっくりと白銀の髪を梳かれて、ユーリは目を見開いた。
いなくなってしまいそうなのはあなたの方だとは、ユーリは言えなかった。

「私はずっとあなたの側にいますよ」
「…ああ、そうだよな」

変なこと聞いてごめん。そう笑う虎徹は薄いガラス越しに月を見上げると、俺も風呂に入らないとと告げて、逃げるようにユーリの元から去ってしまった。
取り残されたユーリは彼と同じように最後に月を見上げると、踵を返した。

私も、あなたもずっと一緒です。

だって約束したでしょう。
その言葉は静かな世界に響いて消えてしまうことを恐れたユーリは言葉にはしなかった。






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あきゅろす。
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