痛み分け
19
「彼は帰りましたか?」
聞き慣れた男の声が自分にそう尋ねてきて、虎徹は声の主の姿を見遣った。
声の主、ユーリは手に紙袋を抱えて、二人では量が多いですねと呟くと袋の中身、所謂ファーストフードと呼ばれるものを取りだした。
ハンバーガー、ポテト、ペプシコーラ。それらをテーブルへと広げて、ユーリは虎徹の隣へと腰を下ろした。
「始末出来たのか?」
「ええ。服は燃やせば跡形もなくなりますからね。それと、政府にもテレビ局にもバレてはいませんでしたよ」
「あんだけ大きな事件なのにか?」
「ウロボロスがやったと政府側は勘付いているようです。だから、行動が慎重になっているのではないでしょうか」
虎徹はそうかと溜息を吐き出すと、テーブルに並べられたファーストフードのポテトへと手を伸ばし、口に放り込んだ。塩加減が調度良く美味しい。
「それより、あなたこそバーナビー君にバレてないでしょうね?」
ユーリは自分用に買ってきた珈琲に口を付けた。
虎徹はバレてないさと笑うと、ハンバーガーを手に取り中身が零れないよう力を入れて潰した。
「…その食べ方止めた方が良いですよ、虎徹さん」
「だって食べにくいんだからしょうがないだろ」
どこの女子高生だ、とユーリは呆れた眼差しを虎徹へ向けた。
虎徹はそんなユーリの視線を気にすることはない。
「まぁ、良いです。…それより、バーナビー君ともう一度話せてどうでした?信じて貰えましたか?」
「んー…、気難しい年頃みたいだからな…どうだろう?」
虎徹は包み紙を開いてガブリとハンバーガーにかぶりついた。もぐもぐと口を動かして、唇に付いたケチャップを舌先で器用に舐め取る。
そんな呑気な虎徹の姿に、ユーリは苦笑を浮かべた。
「全く、あんな危険を犯したというのに、どうだろうはないでしょう」
「しゃーねぇだろ。俺もお前も信用されるようなことしてないし」
ネクストだし、と虎徹は付けたして、手元に置いてあったペプシコーラへ手を伸ばし、ストローに口を付けた。
「確かにそうですが、早いところ彼から信用を得てないと、あの男に気付かれると厄介ですよ」
あの男、の単語に虎徹はストローを銜えたままピタリと止まった。
「…んなの、わかってるさ」
虎徹は男の姿を思い浮かべたのか嫌な顔をした。
「それに、ウロボロスに関わっていないなんて嘘もいつバレるかわかりませんからね」
ユーリの言葉に虎徹は静かに頷いた。
「はぁ…。とにかくバニーに俺たちがウロボロスと知られないように、フォローを入れないとな」
虎徹は大きな溜息を吐き出して、それと、と言葉を付け足した。
「なぁ、ユーリ。ウロボロスのタトゥーを付けたネクストを調べておいてくれないか」
「手に…ですか?何でまた?」
「バニーの両親を殺した犯人さ…。俺の知ってる奴以外で何人いるか知っておきたいんだ…」
虎徹は飲み干したコーラの容器をテーブルに置いて、腕を組んだ。
ユーリは難しい顔をする虎徹に、彼にとっても只事ではないと理解すると、わかりましたと即座に立ち上がった。
「ですが、それよりも先にすることがありますよ虎徹さん」
「へ…?」
虎徹は首を傾げると、ユーリは忘れたんですかと肩を竦めながら言った。
虎徹は目を丸めて何だっけ、ととぼけたように笑う。
「全く、あなたが言い出したんですよ。隠れ家の移動」
「…ぁあっ!!」
ユーリに言われて漸く思い出した虎徹はポンと手を叩いた。
「さぁ、まずはその準備をしましょう。それから私は色々と探りを入れてみます」
「わかった、ありがとうユーリ」
虎徹はユーリに感謝の言葉を述べた。
ユーリは彼の真っ直ぐなその言葉を聞いて、瞳を細めて笑った。
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