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痛み分け
18




「…お前がそうやって生きるってわかってる。だからさ、俺を信じてくれないか」
「…信じ、る……?」
「ああ。例え何があっても俺はお前の味方で居ると、信じて欲しいんだ」

どうか。
そう言って深く頭を下げた虎徹に、バーナビーは戸惑いを隠せずに動揺した。
信じる。
その言葉がずしりとバーナビーの胸に圧し掛かって、無意識に左胸に当てた手を強く握り締めた。

「僕は…」
「僕は、あなたを信じるなんて…出来ません」

人を信じたことなどなかった。
信じてくれなんて言われたこともなかった。
だからバーナビーにはその言葉がとても重く、簡単に受け入れられるものではなかった。

バーナビーは彼の真剣な言葉に、そう答えて。
その言葉に虎徹は悲しむ様子はなく、寧ろ当たり前の返答だというように頷いた。

「まぁ、まだ信じてもらえるような間柄でもないしな」

気長に待つさと虎徹は楽観的に答えて、バーナビーはそんな虎徹の気楽さに呆れて肩を竦めた。

「どうしてそうなるんですか…?」

思わず訊ねてしまって、バーナビーは彼のペースに巻き込まれていることに気付いて舌打ちをした。

「そりゃあ、最近の若者は考えてることが難しいからな。あ、取り敢えずあだ名とか付け合うところから始めるか?」

にこにこと笑う虎徹に、バーナビーは心の中でこのおじさんは、と悪態を吐いて眉間に手を当てた。

「ほら、バーナビーだからバニーちゃんとか。可愛くて良いだろ?」
「嫌ですよ、止めてください気持ち悪い」
「えー…、俺だってあなたとか他人行儀嫌なんだけど」
「じゃあもうおじさんでいいでしょう。あと、絶対バニーは止めてくださいよ」

文句を言う虎徹を適当にあしらってバーナビーはソファーから立ち上がった。

「もう帰ります。車のことも気になりますし、」
「ああ。車ならユーリに頼んで持ってきてもらってるから大丈夫だ。ほら」

あいつ証拠隠滅で燃やそうとして。でも大事なものでも入ってたら困るし。
虎徹はそう言って窓の外へと目を遣った。
それに釣られてバーナビーも窓外を見下ろす。
ネイサンから譲り受けたシルバーの愛車は、このアパートの前に止められていて、ご丁寧にプレートナンバーまで付け替えられている。

「本当に、あなたたちって一体…」
「はは、以前車で逃亡した時にな後付けられて大変だったんだ。その教訓を生かして。今思えば結構危険なことに首突っ込んでるな。バニーちゃんの言う通りか!」
「バニーは止めてくださいっ!」

嫌そうな表情のバーナビーを見詰めて虎徹は笑うと、彼はポケットからメモとペンを取りだした。
そこに自分の携帯の番号を書いてバーナビーに手渡す。
バーナビーは小さなメモを受け取って、そこに書かれた番号に目を通してこれはと尋ねた。

「それ、俺の番号。ウロボロスのことで何かあったら連絡してくれ。まぁ、こっちにも情報なら入ってくるし、お前のことならウロボロス関係で掴めるだろうけど…お前から直接連絡欲しいしな」 「……」
「ウロボロスと探るなら、能力を持ってる人間が居たほうがやりやすいだろ」
「…どうして、そこまで僕に」
「…恩人の息子ってのも多少あるかもしれない。でも、今はそれ以上にお前のことが気になるからだ」

ガシガシと頭を掻いて笑う虎徹の姿を見て、バーナビーはジャケットのポケットに入れた携帯電話と取り出した。アドレスを呼び出してメモに書かれた番号をおじさんで登録する。
バーナビーは登録したての番号に着信を入れて、虎徹は彼の迅速な行動に目を見開いた。

ソファーの上で軽快な音楽が響いて直ぐに止まる。

「僕の番号です。ウロボロスのことで何かわかったら連絡して下さい」

虎徹が携帯の着信を見詰めて、大袈裟に何度も頷く。
その姿があまりにも間抜けでバーナビーは自分でも気付かぬ間に唇を綻ばせていた。

「言っておきますけど、信用したわけじゃありませんから」
「わ、わかってるよ…」
「それなら良いです」

では、そろそろ帰ります。とバーナビーは踵を返して部屋の扉へと向かった。
ふと、フードの男の姿が脳裏を横切って、バーナビーは立ち止まり、後ろでもたもたと携帯を弄る虎徹に声を掛けた。

「そう言えば、おじさんは手の甲にウロボロスのタトゥーを付けた男、もしくはフードを被った男を見たことはありませんか?手の甲にウロボロスのタトゥーを付けた男は両親を殺した男です。フードの男は、輸送車が燃えるとき居たんですが…」
「……いや…」
「…そうですか」
「一応、ユーリにも聞いてみとくさ。あいつに全部任せてるとこあるから」

バーナビーは頷いて、失礼しますと軽くお辞儀をして部屋を後にした。
バタンと閉められた扉を虎徹は見詰めて、顎に指を当てて思考した。

「右手に…タトゥー…」

一人になった空間で虎徹はポツリと呟いた。
静かな部屋の中でその言葉は、思う以上に大きく響いた。





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