「六沢ー帰ろっかー」
予鈴が鳴り終わった放課後に、あっしは六沢の机へ近寄った。
「おういいぜ」
鞄を肩にかける六沢と並んで帰宅。それが二ヶ月ずっと続いてる。
つまりスクアーロが消えてから、毎日。
「お前彼氏と帰ればいいのに」
靴の踵を踏んで校庭を歩く六沢が無表情で言って、しかしすぐにやりと笑う。
「そんな物好きいねぇか」
「撲るよ」
こいつは忘れてるんだ、スクアーロやボスの事。六沢だけでなく京野さんやお兄ちゃんもだけど。
スクアーロなんて存在はあっしの夢だった、それが事実みたいに綺麗さっぱりと。もしかしたら夢かも知れないけどね。
「あ、ジャンプ買わねーの?」
「買うー」
コンビニに置いてあるジャンプを取り、六沢がジュース持って来る前にちょっとだけページをめくった。スクアーロは勿論居る。
スクアーロが消えた後、単行本にもちゃんと現れてくれてて、ほんとにいなくなったんだと教えてくれた。
「お嬢ちゃん好きだねそいつ」
「どこのおっさんだよ」
ジャンプを抱えて道を歩いて。そんな毎日が少し、うら寂しい。騒げるトモダチと別れた後みたいな、切ない感じというか。
「じゃあまたなー」
「うんー」
走ってく六沢に手を振った。たまにこんな感じでスクアーロとさよなら出来れば良かったのにって、後悔する時がある。今更過ぎるか。
自嘲しながら道を曲がって自宅があるマンションを見上げた。もうあの部屋に帰ったってただいまの返事をしてくれる人はいないのだ。
「…あれ?」
俯いてふと、目に入った長い人にあっしは釘付けとなる。
「…このシチュエーションどっかになかったっけ」
好奇心一心で近付き、ますます視界を彩る色ははっきりしていく。そして悟る。
さよならはしなくて良かったんだ。
拾い者(鮫さん)
素晴らしき拾い者はまだあるらしい。
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