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終わりはまだ来ないんだ。






 どうやら横に寝ているらしく、目先には乱れたシーツと斜めになった枕があった。

「……」

 身体を前へ向ければ数年程見て来た金かかってそうな天井。
 帰って来たんだなやっぱ。
 少し重い身を起こし服装を確認すると隊服を着込んでおり、思った通り帰る為には来た時同様の格好をしなければならないっつー無意味な設定があったらしい。じゃあ冒頭で帰せよと文句言いたくなったが、戻って来た今そんな文句自体が無意味だ。

「…俺寝てたのかぁ?」

 だから来た時なにをしていたのか記憶してなかったのか。あーでもあっちに行く前日辺りから記憶が曖昧で、

「スクアーロー入るわよー」

 ノックの後入室して来たルッスーリアが嫌に懐かしい。変なカラフル頭が何とも。

「おはようスクアーロ。昨日は疲れてたみたいね」
「は…?」
「貴男任務の後早々に寝たじゃない。後ボスがお呼びよ」

 用件が済んだルッスーリアは出て行こうとし、その背に制止をかけてどのくらい寝てたのかを訊いた。

「もう、覚えてないの? 私が見た時は部屋に入ってくところだったから、大体一日かしら。そういえばボスもそんな事を訊いてきたわね〜」
「……」

 数ヶ月がたった一日? それってどうなんだ。何か怖ぇぞ。
 出て行ったルッスーリアが扉を閉めたのを確認して、途方ない差に頭を抱えた。しかし俯いてみれば頭に浮かぶ事柄なんてそんな対して大それたもんじゃなく、無理して笑うちなちの顔で。
 考えても仕方ねぇと頭を一度振り、さっさとボスんとこ行くか。
 懐かし過ぎる豪勢な壁や床を見ながら廊下を渡り、途中レヴィやフランと逢って俺が相当疲れていた事を述べていた。全く記憶にねぇのはトリップの副作用かもなぁ。
 少し感慨的になってると見えた一際でけぇ扉を手で開けそうになり、俺らしくねぇと思い切り蹴り開ける。
 そして飛んで来た平べったい陶器。

「てめぇは戻って来てからも変わんねぇな、カス鮫が」
「……」

 頭にかかる焼かれた肉を払うのも億劫なので放っとこう。取り敢えず何の用だぁボス。

「そいつの世話しとけ」
「ゔおっ?!」

 皿の次に放られたのはちっこいもふもふした暖けぇもので、

「シャーク! てめぇこっちに来てたのかぁ?!」

 くぅーん、とひ弱な鳴き声を出しつぶらな黒目に俺を映す子犬を抱きながら、これってありなのかとXANXUSを見る。以心伝心か紛いもんの超直感か、俺の言いてぇ事が解ったらしいXANXUSは鼻を鳴らした。

「俺の足元に居たようだ」

 つまり巻き込まれたのか……可哀相に。

「それよりちなちにはちゃんと言ったのか」
「……」
「………へたれが」
「いやなにを言うんだぁそもそも。変な勘違いすんなよ。ただ最悪の別れ方しただけだ」

 シャークを下ろして屈みながらその柔らかい毛に覆われた喉元をくすぐる。

「それより何の用だぁ?」

 肩から流れ落ちそうな髪を端に見つつXANXUSを見上げるが無言を返された。何もねぇならシャーク持って帰るぞ俺。

「十年前」

 一差し指をくるくる回しながら追っ掛けるシャークで遊ぶ俺は十年前って言えばまだ二十二だったなぁと、しみじみと思うような思わねぇような、

「あ?」

 十年前?
 さらさらと重力で落ちていく髪がシャークにかかった。邪魔そうに首を振り、終いはXANXUSの所へ走っていく。しかしその後ろ姿は俺の目には映ってない。
 俺は今まで忘れ去られていたのかそれとも急に脳に刻まれたのか、とにかく身に覚えがなかった記憶に間抜け面をしていた。

「てめぇ一日中寝てた事あったろ」

 はっきりと結論づけたのは いきなり浮かんだ十年前の記憶で、
 つまり記憶が教えてくれたのは俺とちなちの別れ方が、
 最悪にはならねぇって事だ。










あきゅろす。
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