辛気臭いのは似合わない。
「…なにしてるの?」
スクアーロのいないリボーンを本棚に戻しクローゼットを漁ってるスクアーロに問いかける。床には隊服のコートとスクアーロの服が散らばっていた。
「試してみる」
「なにを?」
収納棚からベルトが放り出され、飛ぶ。
「XANXUSが消える前、あいつ隊服来てたんだぁ。それ以外変わったところなかったと言えばない事もねぇが、取り敢えずな」
「……」
つまり隊服を着れば帰れるのかも知れない。そう言いたいんだスクアーロは。でも待ってよ。
「ちなち?」
ぴたりと手を止めたスクアーロの胴に腕を回して、少しきつめに抱き着いた。鼻をくすぐるにおいが好きであっしはいつも安心すると同時に、心臓を鳴らして。
別に試すのはいいんだ。構わないけれど、もしかしたらスクアーロは消えちゃうかも知れない。リボーンの世界に戻って、あっしの事忘れて……。
何故だか呼吸をするのが苦しかった。
「…ごめん、何でもないよ」
離れながら馬鹿だと自身を罵倒する。スクアーロが戻る事を悲しむならまだしも、嫌がるなんて酷いじゃないか。元々ずっと居られるなんて考えてなかったし、いつか帰るのだって解り切ってた。きっと今までの騒がしさが無くなる事にうら寂しさを感じてるんだろう。
スクアーロを触れずに見上げて、微妙な顔してる君に笑いかける。
「これで漸く戻れるんだね」
淋しくない。殺生を生業にしてるくせに意外と優しいスクアーロは、あっしが淋しがれば絶対戻ってからも暫くは気にするだろうから。単なる願望だけどね。
なにも言わずに眺めてくるから微妙に気まずく、じゃあねとスクアーロの横を通った。腕掴まれたけど。
「ちなち」
「…!」
ふわりとあっしを包む人間味にぎゅうって、胸の内臓が握り潰されそうで。
「帰っていいのかぁ?」
どくんどくんと鳴る心臓に拍車をかける静かな囁き声と背中に回る手が、じわじわとあっしの熱を上げて行く。
何でスクアーロは人の決意を折ろうとするの。
一歩ぐらつけば泣いてしまいそうだった。淋しいとか何とか、下らない事言いそうで、
「スクアーロなんかいない方が良かったんだよ?」
頭を撫でる温もりが停止する。
「あっしの日常壊してくれてさ、いっつもどたばたぎゃあぎゃあ騒いで。ご近所さんに迷惑かけてるんだよね」
流れかけた涙がスクアーロのシャツに吸収された。
「面白かったけど結局は困りだ、」
「ああそうかよ悪かったなぁ!」
突如安定していた空気が大幅に振動し、てか耳元でそんな声出すな馬鹿野郎!鼓膜死ぬだろ!
突き飛ばされるようにしてスクアーロから離れたあっしはキレ出したスクアーロを睨んで、
ばさりと隊服を羽織った瞬間スクアーロは見えなくなった。
「……え?」
残ってるのは脱ぎ散らかされたあっしには十年経っても着れないだろう服と、呆然と目と口両方を丸くする馬鹿が一人。
あまりにも呆気なく消えたスクアーロに、いやこの展開に問いたい。
こんな終わりって酷くないか。
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