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Long
焔の蝶

彼女はどこかに消えてしまった。
探しても、探しても見つからないんだ。
もうどうにもしようがないと諦めた。

彼女を探して僕に何かあったら元も子もないだろう?

だから僕は自ら彼女の生を確認する事を止めたんだ。



それから僕は彼女を忘れた。
顔も声も、抱いていた感情も忘れた。

クリアになった。
心が軽い。


ある日、自室でヒトリアソビをしていたら、どこからともなく蝶が入ってきた。
窓から入ったんだと思う。

僕は蝶を逃がそうと窓際へ追いやった。
でも逃げない。
それどころか近付いてくる。
僕の左手の薬指にとまって、羽を休めていた。

チクッ…。

薬指に痛みが走った。
蝶が僕の血を吸っていた。
いや、何か入れていたのかもしれない。
その行為により、僕の身体は熱くなり、脳内を何かがぼんやりと掠めた。

何だろう…これ。

ぼうっとしていると蝶は指から離れ、窓際にとまっていた。

そして、
蝶が、
燃え上がった。



あっ、と思った。

これは、彼女だ、と。

嘗て愛し、その末、真っ赤に燃やし、灰にしてしまった。


彼女が持つ漆黒の髪。
伸ばされたそれに指を絡め、淡い紅色の唇が紡がれる声に惹かれた。
陶器のような透き通る肌からは目が離せず、いつまでもいつまでも見ていた。

彼女は僕の全てだった。


しかし、彼女は、

ここから出たい、

外に帰りたい、

と言い出した。


僕から離れる事を望んだ。

誰かの目に触れるくらいなら、誰かの傍に居させるくらいなら。

僕は彼女が住む部屋に火を放った。

彼女を地へ還したのだ。




そんな大切な記憶を、僕はすっかり忘れていた。
忘れて、のうのうと生きていたのだ。

見つからないんじゃない。
見つけなかったんだ。
火を放った部屋に横たわっているであろう、彼女の変わり果てた姿を見るのが怖くなって。


だから忘れた。
忘れたかった。

そしてクリアにしてしまった心の一部。
軽くなったんじゃない。
欠落しただけだ。

彼女の死と共に、生を望んだ。

だから彼女はやってきた。
漆黒の羽を広げて、戻ってきた。
僕に“セイ”を植え付ける為に。


身体が、熱い。
心が、寒い。

あぁ、僕もそちらへ行くよ。




灼熱の焔に身を委ね

細胞の一つ一つから

それまであった想いがここで

無に帰した。


〈終〉



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