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あこがれ

跡「サーブはくれてやる」

そう言って跡部はボールをこのんに投げ渡す。
パシッと小気味の良い音を立ててボールを受けとり、すぐに構える。

「すー……はぁー……………」

深く深呼吸をすれば先ほどからある震えは止まる。
武者震いだ。
嬉しくてたまらない。

テニスができること、何より、憧れていた人と対戦できることが嬉しくて嬉しくてたまらない

「ッ……
ふッ……はぁッ!!!」

勢いよくサーブを放つ。
サーブは綺麗にコートギリギリを狙う。

跡「はっ、なかなかいいサーブじゃねーの
まだまだ、だがな」

素早い動きでボールに追い付き拾う。
その時に跡部は気づく。

跡「(……重てぇサーブを打ちやがる……
ケガがなけりゃ、期待できる選手でいれただろうにな)」

十分素質はあった少女。
もったいないと思えた。

真っ直ぐ見据え、次はどうしようかと見てくる姿はいつか試合をした日吉に似ている。

虎視眈々と勝ちに向かう姿が

フッと口元を緩め、打ち返す。
遠くに向かうボールを追いかけ、トップスピンでこのんも返す。
ラリーの応酬を10球続けたところで、このんが動く。

するりと流れるようなステップ。
まるで刀を振るうような鋭いドライブで、返す。

切「あれって……」
幸「……日吉の演舞テニスじゃないね
何だろう?舞っているのはわかるけど、なにか違う」

観戦者たちは動きの変わったこのんに驚いていた。
たしかに、そのまま日吉の演舞テニスの真似で勝てるような相手ではない。

古武術の動きに剣を振るうようなラケット捌き。

博識な柳生はそれに気づいた。

柳生「まさか、剣舞、ですか……」
丸「ケンブ?」

少し押していくこのんを眺めながら丸井は問いかける。

柳生「剣舞とは、古来より人が剣を持ち初めてから行われるようになった舞です。
名前の通り剣、刀を使って舞います。
……もしかしたら、剣詩舞かもしれませんが……」

回転がかかったボールは地面につけばまるで生き物のように方向を変えて飛ぶ。
不二の白鯨と似ているが、かなり低い。

跡部は目を鋭くし、ボールを見据えた。

跡「……なるほどな
やるじゃねーの!




だが、ツメが甘いぜ!!」

カッと開かれた目が見たのは、氷の柱。
跡部の技、───『氷の世界』

死角を突き、チェックメイトを打つ。

ラケットがボールを受けたとき、跡部は今までと違う違和感を感じた。
ガットの緩い感覚を
すぐに視線をラケットにやる。


──ガットが数本、切れていた。

ニッとこのんの口角が上がる。

「ざくっ!」

ガットの切れた場所に当たったがため、死角を突くことはできなかった。

跡「……やるじゃねーか」
「やった……です!
……フッ……!」

フレームを使いカンッと打ち返す。
笑っているが、汗だくで体力をかなり消耗しているのは目に見えてわかる。
当たり前だ。このんは病み上がりで身体を動かすのは久々だ。
しかも、古武術はかなり体力を消耗する。

仁「……チビッ子、もう止めんと危ないのぅ」

技を繰り出す度にふらつき始めた姿に、仁王は眼光を鋭くする。

桑「……おい、止めなくていいのか!?」

心配そうに焦りを見せるジャッカル。

丸「暁来……
っ、幸村君っ……」

ギュッと拳を握りしめ、すぐに止めたいのを耐えるように丸井は幸村に返事を乞う。

幸「…………」

三人の声に何も答えることなく、幸村は視線をひとつもこのんから逸らさない。

柳生「……暁来さん…………」

柳生もまた、視線を逸らすことなくひたすらテニスをする少女を見る。
黙っていた切原は、ギッと試合を睨み付けるような眼差しで見つめると声をあげた。

切「チビッ子!負けんなッ……!!!!
ぜってー勝てッ!!」

張り上げられた応援に、丸井たちは目を丸くする。
一番止めに入りそうな切原が、『負けるな』と応援しているのだ。
幸村はそんな次期部長の声に柔らかな笑みを浮かべ、同じく声を上げる。

幸「そうだ、このんちゃん
跡部なんて負かしちゃえ!」
仁「……その応援はどうかと思うんじゃけど
チビッ子、勝ちんしゃい
病み上がりに負けた跡部も見たいぜよ」
丸井「お前ら跡部ディスり過ぎだろぃ?!
……やるからにはやれよ!暁来!!
跡部をコテンパンにしちまえ!」
柳生「全く貴方がたは……容赦ありませんね
暁来さん、日吉君より先に下剋上をしてしまいなさい」
桑「お前が一番容赦ねーなッ?!
暁来!
頑張れ!」

暖かい(ジャッカル以外は跡部に冷たい)応援にこのんは笑う。
跡部とボールに目を向けながら、声を上げる。

「跡部ぶちょー!」
跡「あーん?」

「下剋上です!!」

好戦的に笑うその琥珀の目に、跡部も口角を上げた。

跡「上等だ!
来いよ!暁来このん!!」

放たれたスマッシュに、このんはラケットで受け衝撃を殺すよう半歩後ろに下がる。
上手く殺さなければ、ラケットが弾かれる。

何度も見た。
『破滅への輪舞曲(ロンド)』

傷も僅かに痛む、腕も足もそろそろ限界、息も上がっている。
それでも、これを返したい。

「(わかしくん……)」

自分と日吉の憧れる相手。
倒したい相手

「ッ!ぜったい、ぜったいはなすな!!このん!!!!」

離したら、駄目だ。
自分を奮い立たせ、ラケットを振った。
ジンッ……と痺れた手なんて知らない。

がむしゃらに、一心不乱にボールを相手コートへ放った。
跡部はフッと笑う。

「……イギリスでも、テニスを続けろ。
そんで、また俺様に挑みな!
なかなか楽しかったぜ、暁来」

『破滅への輪舞曲』

強烈なスマッシュは握力が下がったこのんの持つラケットを弾き、次に放たれるスマッシュが少女の横を通り抜けた。











それを見つめると、このんはクタリと膝をつく。
荒い心臓の鼓動を抑えるように胸に片手を当て、片手は地面に手を付ける。


このんの、負けだった。

切・丸・桑「「「暁来!!」」」

3人は急いでうずくまるこのんに走り寄る。
柳生はドリンクを持ち、幸村もタオルを持って近寄る。

仁王は先に、跡部を見た。
正確には、跡部のラケットを

それにニヤリと笑い、跡部に近付く。


仁「やれ恐ろしいチビッ子じゃ
のぅ?跡部」

自分のラケットを見つめ、跡部も同じ笑みを浮かべる。
そのラケットのガットが、ほとんど歪んでいた。

仁「一球勝負にしてはなかなか面白い試合じゃったな。
完全体のチビッ子の試合も見たいナリ」
跡「同感だ。
……アイツはここで終わっちゃいけねー存在だ」
仁「最も、体力の配分を無視し過ぎじゃのぅ、あのチビッ子」

当の本人はベンチに座ってへにゃりといつもの笑みを浮かべ、ドリンクを飲んでいた。

もう大丈夫だと思ったのかこちらに来て跡部専用のタオルを幸村は渡してくる。

幸「思ったより来るの早かったね、跡部」
跡「お前、こうなることをわかってただろ」

ニッコリとした笑みは肯定を表していた。

幸「跡部も、そうなるってわかってただろこのんちゃんって夏から結構テニスの大会で成績残してるし、合宿の臨時マネージャーを引き受けてから本当は練習に参加させたかっただろう」

部長としての考え、臨時マネージャーを引き受けた責任感。
お互いがお互い、それをわかっていてそうしなかった。

幸「このんちゃん、嬉しかっただろうね。
ずっと試合をしたくて堪らなかった相手と試合をすることができたのだから。」
跡「ま、光栄に思うだろうな」
仁「プピーナ」


切原に強制的に車椅子に乗せられ、このんはむすーっとしている。
跡部たちのもとへ歩けない不満を発散するように全力で車椅子を回して来るまであと1分……



(跡部ぶちょー!ゆっきーせんぱーい!におーせんぱーい!!ヽ(*´∀`)ノ)
(うぉっ…チビッ子速ェエェエエエエ!!!?)
(ちょっwwこのんちゃんまだ元気wwww)
(落ち着きんしゃい、チビッ子に幸村)


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あきゅろす。
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