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つかんで

このんは引き続き幸村たちと一緒にいた。
違うのは場所が近くのストテニになったことだ。

楽しそうに打ち合う切原・仁王・丸井・幸村を車椅子から眺めた。

「……たのしそ……」
桑「暁来もテニス出来るんだっけか」
「できるのです。
いちおー、演舞テニスなの」

日吉のプレイを見続け、自分も真似しているうちに似たようなことが出来るようになった。
まだレギュラー入りはしていないが、準レギュラーにはなんとか入ることができている。

だが、事件・留学のためもう戻ることはない。

「……みんなと、もーいっかいやりたかったなぁ……」

ポツリと、消えそうな声で……寂しそうな表情で呟くこのんに、柳生はそっと頭を撫でる。
その言葉にジャッカルはハッとし、眉を下げた。

合宿中こちらのサポートをしてばかりで打ち合うことはなかった。
このんはそれが少し心残りだった。

仁「なら、今やったらえぇじゃろ」

桑/切/丸/柳生「「「「……は?」」」」
「?」

試合を終えた仁王が汗をタオルで拭いながらニヒルに笑った。
彼の言葉に幸村以外「何いってんだコイツ」という顔になっている。
このんはまだきちんと立てないしテニスの激しい運動はできない。

が、幸村だけは良い案だと笑った。

幸「そうだ。
今やったら良いんだよ、このんちゃん」
丸「ちょっ……ちょっと!
幸村君、正気かよぃ……」

仁王に賛同した幸村に困惑気味に聞けば返ってきたのは自信満々な笑みだ。

「……わたし、テニス……」
仁「ラケットを振るくらいなら大丈夫じゃろ
左利きだと辛いかもしれんが……お前さんは右利きじゃろ?」
「……、あい」
仁「車椅子は押してやるナリ
ジャッカルが」
桑「やっぱり俺かよッ!?」

と、声を上げるも彼は快く了承してくれた。

「でも……」
丸「…………、ウダウダ言わないでやろうぜぃ!
幸村君が大丈夫だって言ってんだから無理しない程度によ」

意を決したように赤髪の彼は近寄ってきてニッと笑みを浮かべ車椅子の押手を掴んだ
見上げた先にある眩しい笑みにこのんは目を細めた。

優しいひとたちだ……


「……、あい!
やってみるです!」
切「ん!良い返事だな」
幸「俺が相手するよ。
ラケット……誰のが使いやすいかな?」

それぞれからラケットを差し出された
全く同じというのはないだろうがメーカーが同じなら少しは使いやすいだろうという拝領だった。

キョロキョロと見回し、そっとひとつのラケットを手に取った。

仁「俺のか」

そういって見てきた仁王に、このんはへにゃりと気の抜けた笑みを浮かべた。

「princeは、わたしのラケットのメーカー……なのです」
切「へぇー、
日吉とおなじBRIDGESTONE DUROWER Uじゃないんだな」
「わかしくんのラケットは、わたしにはつかえなくて……
でも、いまのわたしのラケットはわかしくんがえらんでくれたものなの、です
におーせんぱいのこの子に、かるさはにてるですよ」

クイクイと手首を動かしながら感覚を覚える。
テープが少し摩擦で擦りきれているあたりが何だかんだ言って仁王もテニスに励んでいることがわかり、フッと笑みが零れる。

ジャッカルに押て貰ってコートに入る。
スタンバイしている幸村がこちらに笑みを向けていた。

幸「準備はいいかな?」
「はーい」
丸「ジャッカル、振り落としたりすんなよ」
桑「やらねーから安心しろ(んなことしたら殺される……)」
切「……あ、今ジャッカル先輩の思ったことわかったッス」
仁「奇遇じゃな……俺もナリ」

幸「フフ……何か言ったかい?」
仁/切「「いや別に(汗)」」

幸村の笑顔に二人は黙った。
一方このんはキレイなえがおだなー、と思っていた。
イイ笑顔なのには気付いたが

幸「さて、いくよ」

お手本のような綺麗なサーブが放たれた。
このんが取れやすいように打っているためジャッカルが動かさずとも返せた。

「……やっぱりにぶった」

狙った場所からずれて返してしまったことに自分の衰えを感じ、眉を少し下げる。
思うように動かせない身体はもどかしい。

しばらく幸村が上手いようにラリーを繋げてくれた。

10分過ぎれば少しずつ感覚を取り戻してきた。
このんはそれが嬉しくて笑った。
全開でテニスはできなくても、自分のテニスができるようになるのは嬉しい。

さらに時間が経てばジャッカルの反応速度を越える。

滑らかで鋭く、艶やかなプレイスタイルである演武テニス。
幸村がストップをかけた時、手に感覚はなかった。
それでもラケットは手から抜けたりはしない。

どうやら久々な為か手が痺れてしまったようだ。

切「おいチビッ子、大丈夫か?」
幸「手を出して。
マッサージするから」

ラケットを仁王に一旦返して手のひらを見ると少しだけ血が滲んでいた。
強く握りすぎていたようだ。

「……あかい」

血を拭き、手当てをしてから傷口を刺激しないように手を揉まれる。
ある程度解されれば痺れもなくなり、手の感覚も戻ってきた。

じっとそれを見つめてから幸村に顔を向ける。
真っ直ぐに

「……ゆっきーぶちょー、次はほんきでおねがいします」

それには周りが驚愕した。

丸「本気って……お前何いってんだよぃ!
イップスにかかるかもしれねーんだぞ!?」
桑「何より、傷口が開いたらもとも子もねーぞ!
幸村だってそこまでさせたくないだろ」
切「また病院にもどることになるわたさだろ!!」

必死に引き留める3人に対し、幸村、仁王、柳生はただ真剣にこちらを見つめてくるだけだ。
このんは全員の顔を見て、目を鋭くする。

「……おねがいします。
一球勝負……それ以上はのぞまないから……。
自分の足と身体で、最後やりたいの」

グッと脚に力を入れる。

車イスからゆっくり立ち上がった。
地面に足をついたのは、久々だ。
痩せてフラフラする脚でも、まだ動ける感覚はある。

仁王が、ラケットを投げ渡してきた。
キャッチすれば彼は口角を上げる。

仁「貸しちゃるよ」
丸「ちょっ……馬鹿か!」
切「ふつー止めるところッスよ!?
何渡してんスか仁王先輩!!」
柳生「二人とも静かにしたまえ
……医者の息子の立場としては止めるべきでしょうが、選手としては別です。
一球だけ、やりたいようにやらせるべきでしょう」
桑「柳生!?」

止めにはいると思っていた柳生が認めたためにジャッカルは目を見開く。
依然として無言無表情でいた幸村はやがてふっと笑った。

幸「俺はやらないよ」

にっこり
キッパリと言われた言葉に、このんは目を丸くする。
下唇を噛みしめ、息を吸って青い瞳と目を合わす。

「っ……ダメ、なんですか……?」

幸村は柔らかい笑みで頷く。
……何故だろうか、どこか楽しそうに見えるのは


幸「俺はやらない。
でも、彼ならやってくれるよ」


幸村が指差す先に、彼はいた。



跡「テメーがやってやればいいじゃねーか。あーん?」

ベンチで脚と腕を組んで座り、不敵に笑う王が

「……あとべぶちょー……?」

ニヤリと笑い跡部はラケット片手に近寄ってきた。
ポン、と頭に手を置かれ撫でられる。

跡「軽くでもアップをしろ。
じゃねーと一瞬で終わっちまうぞ」    
幸「試合の相手としては、俺より適任だからね。
このんちゃんが試合をするなら。」

フフッと目を細めて幸村は笑う。
彼らの言葉がどういう意味なのか、何となくわかった。

跡部は日吉の憧れであり倒すべき目標。
自分の憧れでもあるのだ。

仁「一球勝負には、相応しくない相手じゃのぅ……
チビッ子の実力を疑ってるわけじゃないが、超攻撃型の跡部と試合か」
丸「……つーか、これ試合する流れになってんじゃねーかよぃ」
幸「このんちゃんは、きっと無理して言ってるわけじゃないだろう。
もしそうなら問答無用で止める。
だから、見守るべきなんだ、俺たちは」

アップを始めたこのんを真剣な眼差しで見つめる。
少し黙っていた切原がこのんに近寄り、アップの手伝いを始めた。
切原は、認めたようだ。

切「ほら、脚伸ばせ
手伝ってやるから」
「!きりはらせんぱい?」
切「やるからには、一泡吹かせてやれ!
俺はお前を応援してやる」
「あい!」

拳をコツンと合わせ笑い合う。
応援してくれる人がいるのは心強いし安心する。

アップが済めば少なくとも脚のふらつきは消えた。
真っ直ぐ立ち上がり、気高くコートに君臨する王を見据える。

アイスブルーの瞳が鋭くなった。

跡「おい、暁来
お前は何のために俺様と試合をする?」
「……なぜ試合をする?じゃないのです、ね……」
跡「どうせ最後だから、とか言うんだろ
もしくは、試したくなったから……とかな。
で、俺様の質問に答えろ」

命令に近いその言葉。
このんにはそんなこともうわかっていた。
『何のために』なんて……

「……じぶん。
自分のため、です。」

琥珀の瞳を真っ直ぐ向け、真っ直ぐ答える。

跡部はその言葉に、満足そうに口角を上げた。
それでいい。そう言っているかのように……

ビシッとラケットを向けられる。

跡「手加減して欲しいなら言えよ
いくらでもしてやる。」

挑発的な笑みに、このんはひとつ深呼吸をしてから構え、笑い返す。

「いらないの。
わたしはあとべぶちょーに一泡ふかせるんだから」
跡「ハッ!せいぜい頑張るんだな
球を返せないと意味はねーが」
「かえします。絶対に」

このんはワクワクしていた。
日吉が下剋上しようとしている相手との初めての試合だ。
傷が痛むほど心臓は高鳴っているが、わりと頭は冷静だった。

二人の試合が始まるまで、あと2分……  

 


(このひとと戦えば、なにかつかめそうなきがした。)
(だから、このチャンスははなさないよ)


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あきゅろす。
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