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*ずっといっしょに(後編)
[これは『* しあわせって?』の後半です。日吉落ちですのでそれでもOKの方はスクロール]


                  ↓










                 ↓













                 ↓









[このんside]

青い空……
雲ひとつない空。

……窓から見上げ、私は後ろに振り返った。

そこには、純白のウエディングドレスがマネキンに着せられている。
……私が、今日結婚式で着るウエディングドレス……
                  

はっきり言って、このウエディングドレスを着たいとは思わない。

フリルやスワロフスキーが沢山ついて、大輪の白い薔薇を模したものが右肩のあたりについているドレス。
派手なこのドレスは新郎となる人が選んだ。

私はもっとシンプルなドレスが好き。
大輪の白い薔薇より、大きめのリボンがいい。
フリルより花柄のレースがいい。
青い薔薇と福寿草の飾りが欲しいな……

何より、
好きな人と式を挙げたかった……。 

数時間後に式は始まる。
もう、後戻りはできないし……後戻りするわけにいかない。
私が、守らないと……


そう思っていても、一週間前の若くんを思い出してしまう……

『お前は俺が守る』

ねぇ、若くん……
どうしてそう言ったの?
私が若くんを庇ったことを引きずっているの……?

……あなたは、あの約束を覚えているの?


従「新婦様、失礼いたします。」

着付けとメイクの人が来た。

気づけばあと一時間後に迫っていた。
……ぼんやりし過ぎたかな…………

二人にされるがまま、私は着飾っていく。
…………、やっぱりしっくりこない。 
メイクも新郎好みだろう。
華やかでいかにも女の子らしいものだ

鏡に写る私は……幸せな花嫁には見えなかった。

二人がいなくなり、しばらくまた空を見上げていればノックの音がした。

「……?どうぞ」

まだ時間になってないけど……誰だろ……?

ノックに応えるとドアが開く。

幸「やぁ、来ちゃった」
不「久しぶり」
滝「……まったく、ほんといきなりの結婚式だね」

「ゆっきー先輩、周助先輩、萩先輩……
……来て下さったんですね……」

幼い頃から仲良くしてくれている3人だった。
招待状は出したけど、まさか来てくれるとは思ってなかったから少しびっくり……

ドアを閉め、ゆっきー先輩たちが近寄ってくる。

幸「……、本当は、おめでとう……とか綺麗だよ……って言うべきなんだろうな
でも、素直に祝えない」

ゆっきー先輩の表情は厳しい。
ほかの二人も、祝ってくれるような雰囲気はない。

鋭い人たち……

私は小さく苦笑する。

「……それで大丈夫です。
私も、素直に笑えないですから」 
不「そっか……
……幸せに笑っているキミの花嫁姿を撮りたかったよ。
妹のように愛しいこのんちゃんの……」
「……私は、後悔してないですから
例え、幸せじゃなくても」

それは事実だ。
経緯はどうあれ、ここにいることを決めたのは私だ。
この立場を受け入れたのも……

でも、萩先輩たちは悲しそうだ。

……後悔はなくても、迷っていることは気づかれているだろな……

滝「……ねぇ、もし……
もし少しでもこの結婚を止めたい気持ちがあるなら、言ってほしい。
助けてって……
それは今じゃなくてもいいから」
不「僕たちはこのんちゃんの側にいるから」
「……ありがとー……先輩たち」

救いを差しのべてくれて……

時間になるまで、3人は一緒にいてくれた。
特に会話をするのとはなく、ただ側に……

それが心地好かった。

スタッフの人に呼ばれる。
……ふふ、見惚れてるなぁ……
3人とも昔から美人さんだけど、大人になってもっと素敵になってるもの
なんだか誇らしい……

あっくんがエスコートしてくれる予定だったけど、ゆっきー先輩が代わりにやることになった。

幸「……悪いね、木更津」
淳「構わないよ。
……席でまってる、このん」
「うん」

あっくんは中に消えた。
もうすぐ、このドアを開ける……
私はこの中で新郎と誓うのだ。

──夫婦となるために

ふと、頭に何かが触れた。

見上げてみれば、ゆっきー先輩が私を見て優しく撫でてくれていた。
優しく、笑っていた。

幸「……大丈夫。
このんちゃんが思ったままで」
「……ゆっきー先輩……?」

ドアが開かれたため、その言葉の意味を知ることはできなかった。
頭にあった手は離れ、私もまっすぐ前をみる。

両家の親族や友人たちに祝福されながら私はバージンロードを歩く。

先には新郎と司祭。
この距離が、リハーサルより短く感じた。
途中でゆっきー先輩の腕から手を離す。
ゆっくりゆっくり新郎の側につく。

讃美歌からはじまり、聖書朗読と式はどんどん進んでいく。
何気なく近くにいるあっくんりょっくんに目を向け、私は目を丸くした。

「(……二人ともいない……)」

二人が座っているはずの席は空席となっている。
双子だけじゃない……
ゆっきー先輩たちもいない……

式の途中できょろきょろするわけにいかない。
どうしたのかな……?

聖書朗読がおわり、いよいよ結婚の誓いだ。
司祭と目が合う。
司祭はフッと笑った。

                 
……なぜか、似つかわしくない不敵な笑みだった。

司「……申しわけ御座いません……
私はあなた方を誓わせる訳にはいきません。
神がおっしゃっているのです……偽っている者がいる、と……」

突然の司祭の誓い破棄に会場がざわめく。
……私もわけがわからず目を丸くした。

新「な、何を突然……
誰が何を偽っているというんだ!?
私たちの最高の結婚式を台無しにする気かッ!?」

新郎が不機嫌そうに批判した。

「落ち着いてくださいな
……司祭様、どういうことですか……?」
司「先程申しました通り、嘘をお付きのかたがいらっしゃるのです。」
「嘘を……?」

どういう意味だろうと司祭を見ていれば彼は目を伏せた。

司「新婦、あなたですよ」

そう言って目を開いた司祭は、どう見ても神に遣える人物に見えないような笑みを浮かべた。

「わた……し?」
司「あなたには、本当に側にいたい人がいらっしゃるのでしょう。
あなたが心から愛する人が」
新「何を言うんだ……!?このんが愛する者はこの私だッ!
このんは私の花嫁となるために生まれたのだ!
何故それを偽っているなどと言う?!」

っ……

新郎が司祭の言葉を否定しながら私の肩を抱く。
狂気に満ちたその顔が、いつかの彼女のようで……
怖い……
蝕まれるような歪な目が、何もかもを壊しそうなその雰囲気が、私への……殺意に似た愛情が、怖いっ……

この時、私はわかってしまった。

──この人は私を幸せになれない
──この結婚が成立したら、私は…………

                             
決意が、音をたてて壊れた。


「ぁ……、ぃゃ……」

私は……幸せになりたかったの……
   
例え、会社のために好きじゃない相手と結婚することになっても、いつか幸せになれると思ってた。

でも……

この人は危険だ。
逆らったら、何でも壊してしまう

司「……いいえ
あなたは新郎のために生まれた訳ではありません。
十分……苦しみました。
もう、求めてよいのですよ……救いを」
「救、いを……」
司「……幸せになって、彼といたいのでしょう?
あなたの、待つ人と共に」

『待ってろ』


あ……、





若くん…………




『少しでもこの結婚を止めたい気持ちがあるなら、言ってほしい。助けてって』
『僕たちはこのんちゃんの側にいるから。』
『……大丈夫。
このんちゃんが思ったままで』

3人の言葉が頭の中で反響する。

「……、ったすけ、て……」




?「御安い御用ナリ」

次の瞬間、驚く隙もなかった。

司祭が私を軽々と抱き上げたのだ。
彼は私にニヤリと笑みを向けそのまま走って後ろにある窓から勢いよく飛んだ。


新「なっ……、このんっ!?」          

新郎が窓に近寄った時、私たちの姿はもうなかった。

[このん end ]

新郎は自分の愛する花嫁が奪われたことに憤怒していた。

新「っ何をボーッとしているんだグズ!
早く私のこのんを追いかけ……」 
?「その必要はねぇ」
?「そもそも、あのこはあなたのものではないわ」

新郎の言葉を二人の男女の声が遮る。
振り向いた先にいたのは……

彫刻のような美しい顔立ちでどこかカリスマ性を感じさせる美青年とこれまた美しい容姿の美女だった。
だが、いまの新郎にとってその二人は興味ない。

新「なんだとっ!?
私をこけにするつもりか!無礼者が!!」


新郎は知らない。
この二人が誰なのか
この二人が、自分や自分の家系にどんな影響があるのか

だが、周りは違う。

この式に集まったものたちは皆絶句する。
それは彼の両親もだ。

彼らはそれほど有名人であり、
それほど地位や権力、全てにおいて皆の遥か上の存在なのだ。
青年は不敵な笑みを浮かべ、女性はクスリと美しい軽蔑の微笑を見せる。

跡「ハッ!親の脛をかじって無理矢理女を自分のものにしようとした不届き者が何言ってんだ。あーん?」
美「しかも、あなたはかつてその女性を強姦しようとした輩じゃなくて?
抹消されたと思ってたらこんな茶番……ほんと穢らわしいですわ」

いきなり現れていきなり貶され、新郎の怒りは沸点に達する。
それと反対に、彼の両親親族はどんどん青ざめていく。

──これ以上息子に暴言を許す訳にはいかない

父「勝平!その方々に無礼をいたすな!」
新「うるさい!
お前ら黙って聞いていれば好き勝手言いやがって……
あの女は誰がなんと言おうが私の物だ!
このんが愛すべき相手はこの私だ!!
なのに日吉とかいう男が勝手に奪った。貴様らも私からこのんを奪うというなら容赦はしないッ!」

そう言って新郎が懐から出したのは
──折り畳み式のナイフだった

誰かが悲鳴をあげた。


だが、刃物を向けられても二人は物怖じせず、むしろ呆れていた。

跡「いつかあったな、こういう奴は」
美「このんを刺した汚物?
……すぐに苛立つ男は見苦しいわね。
しかも、随分と都合の良い解釈だこと……

あなたはあのこに選ばれなかったのに」

『助けて』と、彼女は助けを求めた。
初めて、求めてくれたのだ。

新「ふざけるなァアァアアア!!!!」

新郎がナイフを振りかざしながら二人に迫ってきた。
会場が騒然とする。

……だが、その刃は届くことはなかった。

二人はまったく動いてはいない。
二つの人影がナイフを蹴り飛ばし、新郎を押さえつけたのだ。

こ「気の狂った新郎だねぇ。
嘗めんなよボケが」
研「弱いくせにな。
ほら、簡単に捩じ伏せれた弱すぎ」
跡「ご苦労、森本に下村」

このんの友人二人だった。

ケンゾーくんが新郎を捩じ伏せ、こっちゃんは蹴り飛ばしたナイフを拾い上げ跡部と宇治宮に近寄る。

こ「このんもバカですよねぇ
強姦しようとした相手忘れてるなんて。
まぁ、整形してるし日吉さんが名前を教えなかったダケダローケド。」
宇「ふふ、お疲れさま
綺麗な回蹴りだったわね」
こ「それほどでも
さぁて、これでストーカー強姦者と殺人未遂の犯人にもなかったわけだけど
どうしましょうなぁ…ケンゾー氏」
研「あと麻薬の密売常習犯にもなっているよ、こっちゃん氏。
いやぁ、終身刑はいけるかね」

新郎を見下しながら嘲笑う二人。
その目には怒りが満ちている。

研/こ「「汚ねぇ野郎が親友を汚すなんざ許さねぇよ。一変地獄一周してきやがれ」」 

ドスのきいたその殺意混じりの言葉に新郎は青ざめた。
新郎だけではない。
親族たちも感じたのだ……今すぐでも殺されそうな殺意に


跡「森本に下村、そこまでだ。
……呼んでおいた警察ももう来た……。
さっさと引き渡して俺たちは目的地に向かうぞ」

今にも名何かをしでかしそうな二人を宥めればスタスタと背を向けて扉に向かう。
警察が扉を開き入って来れば宇治宮に敬礼をしてから新郎に手錠をかけた。

新「はっ離せッ……!
私はまだこのんとの誓いをしていない!!
おい!そこの偉そうにしている男ッ……
このんをどこにやった!?
このんを返せッ!」

お縄についてもいまだに暴れる新郎の言葉に、跡部は進めていた足を止めた。

跡「……小さな姫は王子が待つ場所に決まってんだろ。あーん?
それと、俺様の名は跡部景吾……
跡部財閥のトップだ。」
新「!跡部財閥……!?」
美「ついでにいえば、私は宇治宮美玲……宇治宮グループの会長よ。
その可笑しな頭に刻んでおきなさい。
逆らってはならない相手を、ね
行きましょ」

今度は止まることなく四人は扉に姿を消した。








その頃、このんは司祭……に扮した仁王と共にいた。
ドレスや司祭の姿では目立つためお互い着替えている。

「……まさか、におーさんが司祭様になってたなんて……
でも……どうして」

私服姿で困惑しているこのんに仁王はニヤリと笑った。

仁「お前さんが望まん結婚なら、幸村や俺らはいくらでも壊せるぜよ
ま、あの男は選ばんで正解ナリ」

ほれ、乗んしゃいと呼んだタクシーに先に乗り込んだ仁王が手招きする。
後ろめたい気持ちはあるが、出てしまったものにはしょうがないため隣に乗る。

タクシーが動き出してからは無言だった。
このんに至っては自責の念に駆られている。

親族たちや会社を自分勝手に裏切ってしまった……
覚悟していたはずなのに……

涙が溢れた出しそうになった時、ポンッと頭に大きな手が乗った。

仁「心配せんでもいい
お前さんの親族たちは目的地にもう向かっちょるし、これはお前さんの部下たちが望んだんじゃ」
「!……みんなが?どうして……」
仁「秘書の森が、酷く後悔してたぜよ。
自分のせいで社長に危険な目に遭わせてしまったってな
……あの男は高校の時にお前さんを襲った犯人だとうるさいほうの友人が言いよったし、跡部の調べじゃ麻薬の密売まで手にかけとった輩ナリ」
「!?……そんな……なら私は…………」

思ってもみなかった事実に目を丸くする。

仁王はフッと柔らかな笑みをみせればナデナデと手を動かした。
仁王もまた、妹のような存在であるこのんの幸せを願っている。
だからこそ、こうやって動いたのだ

仁「お前さんは好きな相手と結婚しんしゃい。
っと、着いたぜよ」

そう言われ外を見る。
そこに見覚えがあった。

いや、見覚えだけではない。
そこは、自分の育った場所なのだから……

「氷帝学園……?」

自分の母校だった。

どうしてここに連れてきたのか問おうと振り向いたが、そこに仁王はいなかった。
どこに言ってしまったのだろうか……
キョロキョロと辺りを見渡しているといきなり視界にワインレッドが映る。

向「よっ!暁来!」
「岳人先輩!?」
?「仁王たちはうまくやってくれたみたいやな
俺も居るで」

向日に続いて門の端から青みがかった黒髪の青年が現れる。
十年の月日が更に彼の色気を際立たせているように思えた。
丸眼鏡は健在だ。

「ゆーし先輩まで……
……先輩たちも、協力して……?」
忍「理解が早うて助かるわ
っと、話しとる時間あらへんな……岳人」

懐かしむ暇もなく、近寄ってきた向日に抱え上げられた。

向「よっと
相変わらず軽くねーか?」
「えっ?
が、岳人先輩ッ……?!ゆーし先輩っ??!」
忍「落とすんやないでー、岳人
……俺も後から行くから先に行っとき」

ぽんぽんと頭を撫でて忍足は艶っぽく笑った。

向「しっかり掴まっとけよ!」

そう言えば向日は地面を蹴った。

「っ!」

一気に視界は高くなり、手を振っている忍足の姿も小さくなる。
向日はこのんを抱えたまま木をかけ登り、校舎の上を軽々と駆けていく。

向「大丈夫かー?」
「大丈夫ですけど……なんでまた……」
向「ネタバレすんなってゆーしたちにキツク言われてっから詳しいこと言わねーけど、こうやって走ってんのは俺がしたいからだぜ。」
「?」
向「大事なコーハイの世話を焼くのはセンパイの役目だかんな!」

見上げればワインレッドの切り揃えられた髪が揺れ目が合った。
一応落とさないように気を付けているのか顔は向けてこないが口許には笑みを浮かべている。

向「またジローを混ぜて唐揚げとか羊とか生ハムとか食おうぜ!
お前はクソクソストーカー野郎なんかの花嫁になる必要なんてないんだからよ!」

ニカッと笑う向日は、どこか無邪気だ。
いつかの合宿のことを思い出しているのかもしれない。
辛いことがあったけど、楽しかったあの合宿を

このんも自然と微笑んだ。

「……はい。
また、みんなと食べたいですね」
向「まぁ、すぐ叶うけどな、それ」
「…………、はい?」

向日はにやにやと笑ってある場所で足を止めた。
と思ったらきつく抱いていた腕を緩ませた。

不思議そうに見上げていると向日は一度だけ視線をこのんに向けてから下を見下ろした。

向「また後でな!
おーい!しっかり受けとれ、よっ!」
「へ?っひゃ……!?」

言っていることがわからず頭にクエスチョンマークを浮かべて入れば支えられていた手がい勢い良く離れた。
というか投げ落とされた。

地面に体がつく1b近くで、地面とは違うものがこのんを受け止めた。

目を思わずきゅっと閉じていたこのんはゆっくりと開く。

?「はー……、ほんま無茶する人やっちゃな……
大丈夫か?暁来」

セットされた黒髪に、どこか気だるげな顔をした彼は……

「……ひかる先輩……?」
財「おん
ったく……氷帝もうちと変わらんやろ……
……大丈夫そうやな」 

呆れたような顔で呟いていたがやがて腕のなかにいるこのんの安否を確認する。
それから腕時計をみてゲッと端正な顔を歪めた。

財「時間ギリギリやん……
…………
しゃーない……
暁来、落とさんようにするけどよー掴まっとき」
「……走りますか」
財「理解早いやっちゃな
走るから抱きついとけ」

先程の向日の行動で何となく察したこのんは大人しく財前に掴まった。
何がしたいのかわからないが、向日同様彼も答えたりしないだろう

あまり来たことがないだろう氷帝学園の中を、財前はまるで地元の散歩道のようにすいすい迷う様子を見せないまま走り抜けていく。
それには感嘆しか上がらない。

「……皆さん走りは現役ですね。
テニスもまだしていらっしゃるのですか……?」
財「まぁ、休みの日とか暇な奴ら集めて時々な
っちゅーか、話し方固いわ」
「?
……だめですか?」
財「ダメやないけどむず痒い
気を楽にしとってもええで、合宿みたいに」

12にも満たなかった自分がたくさんの人に出会えたあの合宿。
彼も懐かしんでくれているようだ。


「……クスクス
ちょっとだけ大人びてみたのです。
ひかるセンパイたちも大人になりましたし……
昔みたいには難しいです。」

今回のことだって……

このんの曇った顔に、財前は眉を寄せる。
それから呆れたような顔でデコピンをした。

「っ……いったいッ…………」
財「お前アホやな
大人になったくらいで先輩後輩関係は変わらんわ
後輩は黙って先輩の言うこと聞いとけ」

有無を言わせないような、でもどこか気遣ってくれているような言葉に目を丸くするも、その優しさに自然と笑みが零れた。   


……、らんぼーですね……ほんと」
財「うっさいわ
……ま、もう変なやつのことなんか忘れとけ
せやないと、今からのこと幸せに感じられへんで」

サプライズはこれからや、とニヒルに笑って教室棟の玄関で立ち止まってから降ろした。

玄関では、亮が待っていた。
ホッとしたような安心した柔らかな笑みを浮かべこのんたちに近寄る。
自分の従兄も、このサプライズに乗っていたことを改めて知り、なんだか複雑な気持ちだ。

亮「財前、連れてきてくれてありがとう」 
財「これくらい何てことないッスわ
木更津さんが来てるってことはあの二人も到着したんやな」
亮「いまさっきね
…………このん、ごめんな」

亮たちは結果的にこのんを騙してしまったことに罪悪感を感じているようだ。
だが、このんは騙されたとは思っていない。

「……謝るのはお門違いじゃないかな?りょっくん
私は、大切なものを失いかけていた。
自分の判断だけで動いた。
でも、りょっくんたちのおかげで失わずにすんだよ
ありがとう」

自分が危ない解きは、いつだって守られていた。
それには感謝以外何もない。
照れくさそうに笑ってみせれば亮はこのんの大好きな笑顔を見せてくれた。

亮「クスクス……敵わないな」
こ「ちょっ……あえて雰囲気ぶち壊させていただくぜぇぇえぇええええええ!!!!!」

こっちゃんの絶叫乱入でステキナ笑顔になったのは言わずもがなだが。
亮がこっちゃんにアイアンクローを食らわせている間に息をきらした宇治宮が駆け寄ってきた。

美「もう!遊んでないでないで早くなさい、ことな!!
このん、とにかくついてきてちょうだい」
「あ、……はい
ひかるセンパイ、りょっくんありがとう」

先を行く宇治宮を追いかけながら二人に手を振った。

こ「ちょっ……!?私遊んでないでないし置いてかないでッ!!」

亮のアイアンクローからなんとか抜け出せば、二人を追いかけていく。
3人を見送っていた財前たちは踵を返した。

亮「……よかったの?キミは」
財「しゃーないッスわ
暁来の目がいつも追っとったのは、アイツや
木更津さんも、渡して良いんスか?」
亮「このんは大切な妹だからね
傷付けないかぎりは彼に託すしかないよ」

そんな会話をしていたことを、このんは知らない。


少し走ってたどり着いたのは、応接室だった。
はっきり言って、勝手に校舎に入って勝手に使っていいのだろうかという疑問は出るが気にしたらキリがないだろう。

応接室に入ってすぐ、ことなに目隠しをさせられた。

「え」

今日何度目かの困惑

こ「しっかり立っててねー。
あ、服脱がすねー」
「えっ……」

返事を待たずに手際よくことなはこのんの服を上から下まで剥ぎ取った。
それからサラサラとした肌触りの物を着せられていく。
同時に頭のあたりに違和感を感じていた。
宇治宮が何かしているようだ。

それが終われば顔もいじられていく。
神的なテクニックで目隠しを着け外ししながらだ。

10分後ぐらいに二人の手が離れた。

が、すぐに誰かに抱き締められた。
高さ的に宇治宮だろう。

美「……ほんとおバカなんだから……
私、怖かったのよ?
このんがまた自分を犠牲にしようとしたこと……
今回もあなたを救えなかったら……て考えたら不安だった。」

身体が、声が震えていた。
中等部の時から姉のように可愛がってくれる宇治宮。
結婚の話をして、誰よりも悲しい顔をしていたのは彼女だった。

自分は、ずっと宇治宮に憧れていた。

「……美玲さん、毎回悲しませてるね……私
あなたのように、なりたかった。
お姉さんのようなあなたの友人でいられて、幸せだよ。
……ありがとう……、美玲さん」

上手く言葉じゃ伝えられないが、宇治宮は笑っていた。

宇「これからも、友人兼妹よ……あなたは」 
そう言った宇治宮の声は、何よりも綺麗だった。

宇治宮が離れた瞬間、次はガバリとこっちゃんに抱きつかれた。

こ「こんのバカこのん!
またストーカーに捕まって……!
ほんとバカ!!」
「バカバカひどい」
こ「言いたくなるわ!
ったく……
もうやらせないからね!
あんたは、笑ってわたしら友人ズたちと一緒に遊んだりしたらいーの!
それから……、

今からでも捕まえてきなさいよ!

任せたぜ!猫目君」

パッと腕が離れた。

ふわっとまた抱き上げられた感覚がする。
目隠しを外されていないため誰にされているのかわからないが、発せられた声ですぐわかった。

?「猫目君って……
ネーミングセンスまだまだだね。」


少し低くなったが生意気さの抜けない声に「まだまだだね」という口癖。
顔が見えなくても彼が誰だかわかった。

「越前くん……?」
越「3日ぶり、暁来。
…………目隠しのせいで顔はっきりわかんないけど、なんか勿体無い」

抱き上げている腕に力がこもった気がする。

こ「猫目君や、頼むからちゃんと向かってよ
君がこの役やりたいって言うからケンゾー氏は任せたんだかんな」

越前の雰囲気になにかを悟ったのか釘を刺すように言う。
彼は不服そうに「ちぇっ……」と呟きゆっくり歩きだした。

どんな顔をしているのだろうと首を傾げるも恐らく拗ねた顔なのかも知れないな、と考える。

こ「わたしら友人ズは後で向かうから。
せめて予定時間までにあっちに行ってよ。」
越「……了解」
「、こっちゃん……美玲さん……」
美「私たちの企みはこの先でわかるわ。
……あなたの意志を大切になさい」

二人に見送られながら、越前とこのんは廊下を進んでいく。
目隠しをしているため聴覚が鋭くなっているため、休みの日にしては静かだなと耳を澄ましていた。
越前の足音だけが廊下に響いている。
部活はないのだろうかと思いながら腕の中で大人しくしていた。

越前もこのんもどちらも口を開くことをしなかった。
話したくない訳じゃないが、話す必要がないと思っていたからだ。

目的地に着くまで話さないと思っていた。
が、越前が声をかける。

越「……ねぇ」
「……なに?」
越「あんたはさ、だいたいわかっているんでしょ?
鈍くないんだから」
「……」

それは確信を持っていた。
このんがこの先のことに気づいている、と。
肯定するように彼女は笑みを浮かべる。

「着せられた服だって、つい数時間前に着ていたものとほとんど同じ肌触りだし、みんなが口にする『幸せに』って言葉でだいたいわかっちゃってる。」

あの人の言葉が、ほんとなら…………




越「俺を選んでよ」

それは力強い声だった。
はっと息を呑み、越前に顔を向けた。
彼の足は止まっている。

越「暁来、俺を選んでよ……
例えあの人を想っていてもいつか必ず俺が塗り替える。」
「……越前くん……」

真剣そのものな言葉に圧倒されそうになる。
越前が自分に好意を向けてくれているのは知っていた。

それが友愛でないことも、知っていた。

越「できるなら、このままあの人に暁来を渡したくない
俺は、暁来が好きだよ。恋愛対象として
もし、あの人を選ばないなら俺を選んで」

そっと目隠しを外された。
ずっと目隠しをしていたため眩しく思うも、目の前彼が真っ直ぐ見つめているのが見えた。
射ぬかれそうなほど真っ直ぐに

このんは
まさしく王子様のような越前に、微笑んだ。

「……、ごめんね越前くん
あなたの想いを受け入れることはできない。」
越「…………だと思った」

フラれた越前は、そう見えないような笑みをみせた。
わかっていた、そう言っているように

ゆっくり下ろされる。

越「諦めるつもりはないけど……暁来、

幸せになってよ」

祝福の言葉。
コクりと頷いて目の前の扉に顔を向ける。

誰が待っているか、なんてすぐにわかった。

越前が扉を開く。




                    




?「───このん」

あなたはズルいよ

「若くん」

白いスーツに身を包んだ、皮肉屋で野心家で何だかんだ言って優しい幼馴染み兼元師匠兼兄貴分で……





誰よりも愛しいひと──




神聖なテニスコートに設けられた祭壇。
そこには本物の司祭がいる。
淳が横から来て手を差し伸べた。

エスコートしてくれるようだ。
その手を取り、腕に手を絡めればゆっくり淳は歩き出す。
となりの従弟は相変わらずのポーカーフェイスだが、いつも以上に柔らかな雰囲気だ。

2度目のバージンロード。
でも、いまの方が心地好かった。

淳の腕から離れる。

淳「幸せに」

彼はそう言って笑った。
 
「っ……」


そして、彼の側に歩み寄る。

日吉はこちらに身体ごと顔を向け、このんにその切れ長の目を琥珀色の目と合わせた。
このんもじっと見つめていたが、
ついさっきからの緊張感が嘘のように呆れた顔をした。

「ここまでの流れは、若くんの筋書き?」

恐らく讃美歌も聖書朗読もない。
だから、今聞くべきなのだ。

日「……あっちの奴を捕まえてくれと頼んだのは俺だ。
だが、司祭の演出もここまでのバトンパスは俺の計画じゃないし、迎えに行くつもりだった。
跡部さんが周りに話したから、先輩たちがやりたがってこうなっただけだ。」
「くすくす……先輩らしい
……これは、あなたの意志?」

これ、とは会場と自分たちの衣装のこと。

「髪型とかは見えないけど……
あなたの衣装と私の着ているドレスで察してしまうよ」

Aラインの純白のドレス。
レースと胸元の青薔薇、福寿草の飾り、腰に巻かれた少し斜めの大きなリボン。 

まさしくこのんの憧れていたドレスだ。
本当に着たかったウエディングドレス……

日吉は不敵に笑う。

日「そのままの意味だが?」
「クスクス……
言葉にしてくれなきゃ帰るよ」
日「……誰に似たんだよ、お前」
「若くんじゃないかな」

イタズラっぽく笑うこのんに不敵な笑みは苦笑に変わる。
が、すぐに真剣な顔になった。

鋭く射抜くような真っ直ぐな視線。
それを受け入れるように微笑む

日「一度しか言わない」
「…………はい」












日「一生お前の側に居る
──だから、一生側にいろ。俺の嫁として」
「……はい……愛してます若くん」










『これなーに?おかーさん』
寿『これは結婚式よ
大切な人とずっと一緒にいることを約束するの。
綺麗な服を着ているのは花嫁さんっていうのよ』
『はなよめさん?
いーなあ。このんもわかしくんといっしょがいーの』
兄『だってよ、若』
日『………ずっといてやってもいいっておもったら結婚式してやってもいい』
『うん!
わかしくんのはなよめさんになってずっといっしょなのー』
寿『あらあら、婚約しちゃったわね』
母『婚約(仮)だけど……きっと素敵な結婚式になるわね』
『やくそくー!わかしくん』
日『……ん』







そこにいた氷帝生達や顔馴染みの面子の祝福の言葉が響き渡った。
感極まって泣くものや女子たちは憧れるように黄色い声を上げ、うっとりと頬を赤らめる。



世界中の花束をもらったかのように、このんは幸せそうに笑って涙をこぼした。
日吉にハンカチで拭われ、頬を撫でられる。

日「式、やるぞ
泣くのは後にしろ」
「泣かせたのは誰なの……
もう、プロポーズから結婚式までの流れが早すぎるよ……」

恋人になってないのに、と苦笑しながらなんとか涙を止める。
それから祝福ムードな観客たちをどうしようと悩んでいた時だ。 



───パチンッ……

跡「テメーら、これからが本番だッ!
黙ってしかと氷帝の花嫁花婿の姿をその目に刻み付けな!!」


観客席のてっぺん、氷の王は高らかに言い放った。
彼のカリスマ性は大人となっても留まることはなく、むしろ更に増したようだ。
観客たちは全員黙った。

日「…………下剋上だ」

跡部の見せたカリスマ性に野心が騒いだようだ。
ギラギラとした視線を彼に向けている。

そんな婚約者兼花婿に呆れたように肩を落とす。

「もう、……静かになったんだから式しよう
……それとも式をするつもりはないの?」
日「……良い性格になったな、お前」
「くすくす
それほどでも。
…………司祭様、お願いいたします」

随分待たせてしまったというのに初老の司祭は穏やかに笑って頷いた。

司「若い未来ある二人が結ばれたところを神に代わって見ることが出来て喜ばしい。
……貴女方の幸せを願い、いつも以上に心を込めましょう。



汝、日吉若は、この女暁来このんを妻とし、
良き時も悪き時も、富める時も貧しき時も、
病める時も健やかなる時も、
共に歩み、他の者に依らず、
死が二人を分かつまで、愛を誓い、
妻を想い、妻のみに添うことを、
神聖なる婚姻の契約のもとに、
誓いますか?」
日「誓います」
司「汝、暁来このんは、この日吉若を夫とし、
良き時も悪き時も、富める時も貧しき時も、
病める時も健やかなる時も、共に歩み、
他の者に依らず、死が二人を分かつまで、
愛を誓い、夫を想い、夫のみに添うことを、
神聖なる婚姻の契約のもとに、誓いますか?」
「誓います」
司「……皆さん、お二人の上に神の祝福を願い、
結婚の絆によって結ばれた このお二人を
神が慈しみ深く守り、助けてくださるよう
祈りましょう。

では、指輪の交換を」

介添人として出てきた滝に手袋とブーケを渡す。
日吉は司祭から指輪を受け取りこのんの手を取って指輪を通す。
続いてこのんが司祭から指輪を受け取り、日吉の指に通した。

シンプルなシルバーのリングはいかにも日吉が好みそうな物だ。
このんもそれを気に入り、小さく笑む。

司「誓いのキスを」

司祭の言葉を合図に顔をおおっていたベールが捲られた。

はっきり見えた日吉の顔。
熱を帯びたその瞳に応えるように柔らかく目を細め、閉じた。
                  
数秒もかからずに、唇が重なった。

初めてのキスは、優しくて心地が良い口付けに酔いしれるほどで、離れてしまうことが惜しく感じた。
目を開けば照れたようにうっすら高揚した夫がいた。

どちらともなく口を開いた。


日「「愛してる」」

互いに手を取り合い、額を合わせて笑った。


再び祝福の声が上がるまで、あと10分……






(夢だった。あなたの側に居続けることが)
(お前を離しはしない。
死が二人を別つまでじゃない。別っても、ずっとこのんの手を離すつもりはない。)
(お母さん、お父さん……
私はすごく幸せだよ)

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