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きせきをおこすの

このんは今綺麗なフラワーガーデンにいた。
車イスを動かしながらひとつひとつしっかり目に焼き付けるかのように見て回っている、ら
寒い季節だからか種類は少ないが普通じゃなかなか見られない花たちにご満悦だ。

幸「ふふ、気に入ってくれたかい?」

ガーデンの持ち主である幸村が如雨露をもって近寄った。

今日は幸村の家に招待されたのだ。
合宿の合間で幸村が花の世話を趣味にしていると聞き、見てみたいと言ったのがきっかけだった。
自慢の屋上庭園をこのんに見せてあげたかったのだが、流石に氷帝の生徒であるため学校の許可が必要となる。 
それはなかなか難しいのでこうやって家の花花を見せることになった。

「きれーだしかわいいの
みんなげんき」
幸「ありがとう。気に入ってもらえたみたいだ。
このんちゃんは、どの花が一番のお気に入りかな?」

車イスを片手で押しながら見せてくれる。
キョロキョロと見渡していれば鉢植えの花を見つけた。
紫がかった青い花でまだ咲きかけなのか緑が強い。

「……レシュノルティア・バローバ」
幸「え?あ、これか
レナが好きなのかい?」
「あい。お家にもさいてるの
……でもこの青いレナは初めてみたの
きれー……」

花のひとつにそっと触れた。
小さめな花は愛らしく上品さもある。

幸「にしても、よく知ってるなぁ
家にあっても日本名の方がわかりやすいし、普通レナの名前すらマイナーなのに」

難しい名前じゃないか?と目線を合わせるようにしゃがみこむ。
えへへ、とはにかみながら得意気に言い返す。

「お花、すき
だからたくさん図鑑みてたくさん覚えたの。
レナは、えーめいもきれーだからやっとおぼえれたです。
日本名もすてき」
幸「レシュノルティア・バローバ通称レナ
日本名は『初恋草』、だね
ふふ、けっこうロマンチックだよね
やっぱりそういうのは好きか」
「ウエディングはおんなのこのゆめなのー。」
幸「そのときは絶対招待してね。
っと、そろそろ冷えてきたし中に入ろうか。
庭が見える暖かい部屋でお茶をしよう」

そっと鉢植えを受け取りもとの場所に戻される。
車イスを押してもらいながら中に入るまで花花を見つめ続けた。


精「お兄ちゃんこのんちゃんおかえりー!
みてみてー!クッキーとパウンドケーキ焼いたんだよ!!」

幸村の妹である精花が満面の笑みで作ったお菓子を見せてきた。

「わぁ、おいしそーなの」
精「でしょでしょ!
お母さんがお茶いれてくれてるから一緒にたべようよ!」
幸「精花も母さんも用意がいいな。
てか、いつの間に精花はこのんちゃんをそう呼んでいるんだい?
来たときは暁来さん、だったのに」

いつの間にか仲良くなった二人を微笑ましそうに見つめてる。
精花は小学生四年生なのだが身長差があまりないためかこのんと同い年のように見える。

精「お兄ちゃんがお母さんに呼ばれてた時にちょっとねー」
幸「……あぁ、突っかかったのか
まぁ、このんちゃんは良い子だし面白い子だから精花も気に入ると思ってたよ」
精「うん!
あ、早く食べようよ!お茶冷めちゃう」
「おちゃかい楽しみ」

にこにこ3人とも笑って部屋に向かう。
幸村がお気に入りの部屋は床や壁など全体的に暖色系の色で、窓からは柔らかな日射しが入っている。
その真ん中にはクラシカルなテーブルと椅子が置いてあり、幸村や精花がテーブルクロスを敷いてお茶会の支度をしていく。
ちなみに、このんはパウンドケーキを運んでいる。

「んー、すてきなお部屋なの」
精「幸村家全員のお気に入りの部屋なんだよ!
おにーちゃん!このんちゃんを椅子に移動させてあげて」

この椅子は車イスより高く、今のこのんでは力をいれて登らなくてはいけない。
それでは傷を開き直り兼ねないため精花は幸村に頼んだのだ。

幸「わかってるよ
ちょっと失礼する……よ……」

横抱きで抱えあげた時、幸村は目を見開いた。

「……ゆっきーセンパイ?」
幸「……、あぁ、ごめんね
ゆっくりおろすよ」

すぐに柔らかな笑みを浮かべたが幸村の内心はゆれていた。

幸「(……精花より軽かった
それに、細すぎて骨と皮しかないのかとおもうほど……)」

淳が感じた同じ恐怖を、幸村は感じたのだ。

椅子に移動させてから車イスを安全な場所に置く。
精花がお茶をカップに注ぎ、幸村がケーキを切り分ける。

幸「はい、このんちゃんの分ね」
「ありがとーなの。
パウンドケーキはりんごさん?」
精「正解
リンゴのコンポートを刻んで入れたんだよ!
お茶はミルクティーだけど大丈夫?」
「だいじょーぶ。すきなの」
幸「じゃあ、いただきます」

このんは合掌をしてから紅茶を一口飲む。
ハチミツが入っているからか冷えた身体をほっかりと温めてくれる。

「ふあ……ぽかぽかするの」
幸「けっこう外に居たもんね
美味しいかい?」

その問いかけにちびちび紅茶を飲みながら頷く。

幸「それはよかった」

ニコッと笑う幸村は安定の美しさである。
次に口にしたパウンドケーキもほどよい甘さとリンゴのほんのりとした酸味がいい。
黙々と食べていれば、二人がこっちを和やかな笑みで見てきた。

精「なんかこのんちゃんの周り花とんでる気がするね」
幸「ふふ、美味しいんだよ
生ハムを食べてるときもこんな感じだったし
そういえば、不二からは写真を貰ったかい?」

俺は貰ったんだけど、着ていたカーディガンのポケットから数枚の写真を取り出す。 
パウンドケーキに夢中になっていたこのんもようやく顔を向けた。

「むきゅ、……貰ったです
あ!トランプのっ」
幸「うん。俺が参加し始めて不二が撮ったやつね
これは生ハムを食べさせてるときのだ」
「ゆっきーせんぱい笑顔すてき」
幸「ありがとう。
あと、これは俺が気に入って貰ってきたやつなんだけど……」

そう言って見せたのは

精「……、お兄様私にも頂けますこと?」
幸「構わないよ。コピーしようか」
「ねこみみにゃーにゃー」

猫耳フードを被って猫のポーズをとっているこのんだった。
せっかくだから撮らせて欲しいと言われ撮られた写真で何人かはこの写真を貰っていたりする。

少しだけ幸村が貰った写真を眺める。
たくさんある写真の中に、気になるものが混ざっていた。

「これ……」
幸「……うん、ちょっと悔しいけどそれも俺のお気に入りなんだ。」

それは、日吉がこのんの頭を撫でている写真……このんの一番好きな写真だった。

精「?お兄さん?」
「……みたいに大切なひとなの
ほんとーのおにーちゃんじゃないけど、ものごころついた時からずっと一緒にいた大切なひと……」
精「へぇー!
すごく幸せそうだね、二人とも」
「しあわせそう?」
精「すっごく」

ふふっと笑って言ってくれる精花に、このんはへにゃりと笑い返す。
合宿に関わっていない第三者から見ても、この二人が幸せそうに見てもらえるのは嬉しい。
このんとっても、この写真はお気に入りで実は今日持ってきているポーチにも同じものが入っていたりする。

幸村の方に顔を向ければ、そっと頭を撫でられた。

幸「俺はまた、このんちゃんに心の底から笑ってほしい。
君は俺にとって、精花みたいに大切な妹みたいな子だからね」
「ゆっきーせんぱい……
…………だいじょーぶ。
跡部ぶちょーともやくそくしたの
ゆっきーせんぱい青いバラの花言葉知ってるです?」

いきなり花言葉を尋ねられキョトンとした顔になるもフッと笑って頷いた。

幸「知ってる
紫がかったものや赤みがかった青薔薇は『不可能』
真っ青な青薔薇は『神からの祝福』と『奇跡』、だね
……このんちゃんが約束したのは……『奇跡』?」

幸村は知っている。
この子は『不可能』を恐れない。
『神』任せにせずに、彼女の元師匠のようにどんどん進んでいく子だ。

だから、起こせるだろう、と。

「『キセキ』起こすの。
また、わかしくんにわたしの名前……よんでもらいたいから」
精「?喧嘩してるの?」
「んー、けんかみたいなのしてるの
なかなおり難しい」
精「このんちゃんなら大丈夫だよ!
よくわかんないけど大丈夫!」
幸「ふふ……
精花は何を根拠に大丈夫って言ってるんだろうね」

可笑しそうに笑っている兄を一睨みしてから精花は笑って自信満々に言ってみせる。

精「だって、このお兄さんとこのんちゃん誰よりも仲良さそうだもん。
喧嘩しても、ちゃんと話せば仲直りできるよ。
上手く言えないけど、このんちゃんならできそう。」

ふふっと笑ってみせる精花は彼女の兄のように綺麗だった。
このんは彼女に勇気を貰った気がする。
やっぱり、少し不安だったから
精花の言葉と笑顔は魔法のようだとこのんは思う。

「ありがとー、精花ちゃん
なかなおりするの、ちゃんと」
精「仲直りしたら教えてね!
またお茶会呼ぶから!ね、お兄ちゃん?」
幸「そうだな。
あと、1週間もないけど……君はやるんだよね?」

確認をするように聞かれ、このんは笑って肯定する。

「あい!やるの、です!」

このまま出ていくつもりはない。
自分が見つけると決めたのだから。

このあと切原、丸井、桑原、仁王、柳生が幸村をテニスに誘うまであと5分……



(おっじゃましまーす!)
(お!暁来もいんのかよ。
元気にしてたか?)
(うー、きぶんはげんきなの、です!)
(わりぃな……幸村に幸村妹)
(フフ、その件はテニスコートで償って貰うから安心してくれ)
(……ピリーン)
(仁王さん?なぜ逃げようとしてるの?)
(……諦めたまえ、仁王君) 
(テニス!みたい!)
(……仕方ないのぅ)

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あきゅろす。
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