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しあわせすぎるよ

退院して、3日目
このんは氷帝学園にいた。

相変わらず車椅子での移動だが、自分で動かすことに少し慣れた。
スイスイではないが、ゆっくり校内を進めるほどに。

学園に帰ってきた理由は2つある。 

保健室で一人テストをすること。
これは周りの人たちのお陰で難なくできた。

もうひとつは……

理「…そうか…、それでイギリスに…
寂しくなるな…
暁来さんのことは孫娘からも聞いていたよ。
いつも一生懸命で、びっくりするほど真っ直ぐな子だとね…」

理事長に、イギリスへ留学することだ。
跡部が先に言ってくれていたが、やはりこういったことは自分からも話したかった。

柔らかな表情に寂しさを見せながら、理事長は言う。
このんは真剣ながらも少し微笑みを浮かべた。
どうしてもこの人に伝えたい言葉があったから。

「理事長、わたし氷帝がだいすきです。」
理「!…」
「みんなも、一生懸命です。たくさんみました
勉強で真面目なひと、たのしそうなひと、眠たそうなひと…
友だちといっぱい話してるひと、恋をしてるひと、ケンカしてるひと、泣いてるひと…
部活で勝とうとしてるひと、悔しがってるひと、諦めきれないひと、迷っているひと、おうえんしてるひと……
辛いことも楽しいこともいっぱいあって、スゴイみんながいるこの氷帝が、だいすきです。
ここにいて、よかったです。
いっぱい行事もあったけど、おもいでは氷帝ぜんぶです!
ありがとうございます、理事長」

宝箱を見せるように思い出を話し笑っている目の前の少女に、理事長は笑みを深めた。
この少女は、たくさんを伝えてくれた。
私にありがとうございますと言ってくれた。

理「私からも、ありがとう。
君のような素敵な子供を育てる手伝いができたことを誇りに思うよ。
それに、暁来さんの思い出話のお陰で、さらに氷帝を愛することができるよ……
君を失うことは惜しい…
けれど、それ以上に応援したくなった。
行ってきなさい、暁来さんが思うようにたくさんの世界を見るために…
そして、叶えたら聞かせてほしい。
暁来さんが見てきたこと、体験したことをたくさん」

ーー君がまた笑って帰って来てくれることを祈っているよ。

理事長の言葉に泣きそうになった。
だがグッと押さえて頷く。

やっぱり氷帝学園にいれてよかった…

「あなたが理事長でよかった」


これからも、彼らをお願いします……



理事長室を出て、部活をしている道を通る。
テニスコートが見えた。

休みなためか、誰もいない。

それでも、氷帝学園中等部のテニスコートをしっかり目に焼き付ける。

「……わたしのはじまりも、わかしくんのはじまりも一緒だったんだ…」

わたしたちは幼稚舎からの帰りに、あのキングに魅了された。

わかしくんたちから離れた場所でみていたけれど、テニスを始めるきっかけを与えたのはこの場所だった。
始まりなんて、あれだけで充分だった。
だから、あいさつしなければ……

「ありがとうございました!
テニスに会えてよかった!みんなに会えてよかった!」

深く頭を下げた。
顔を上げれば、笑ってみせる

だって、『さよなら』なんかじゃないのだから……

「またね!」





跡「ーーあぁ、さよならなんざ言わせねーよ」

パチンッと鳴った

『『このんちゃん!/暁来さん!またねーー!!!!!』』


盛大な拍手、歓声、涙声、クラッカー…
いきなりのそれらに、このんはただただ目を丸くするしかなかった。

このんが関わってきた全員、それから見知ってるぐらいの人までほとんどがいきなり物陰から現れたのだから…
合図をした跡部に思わず顔を向ければ満足そうに笑っている。

跡「サプライズ成功、だな。
こんだけのやつらがお前のことを知って見守ってくれていたんだから、何も言わずに出て行かせはしねーよ。あーん?」
「……バレバレ…なの…?」
宇「ふふ、私たちに内緒でいなくなるんて絶対にできないわよー
もう、寂しいじゃない…」

親衛隊総隊長の宇治宮は綺麗な笑みを浮かべながらも少し眉をさげ、ぎゅっと傷に障らないぐらいのちから加減でこのんを抱き締めた。

幸「ーー俺たちにも内緒っていうのも解せないなぁ…」

カシャッという音と知っている声に上を見れば、押手を掴む幸村がいた。
いや、後ろに立海のメンバーたちがジャージ姿のまま来ていたのだ。
……幸村以外疲れているように見えるのは気のせいだろうか……

幸「あぁ!
ちょっと走ってきちゃった☆」
「…ゆっきーぶちょー…笑顔すてき」
幸「ありがと♪」

ふふ、と笑うこの人は綺麗だ。
息を整えた切原たちも近寄ってきた

切「ったく!
跡部さんから収集かけられなかったら来れなかったところだったんだからなっ?!」
柳「来れなかった確率は72.4%だったからな。
まぁ、精市が気づきそうなきもしていたが」
桑「…末恐ろしいな……
とりあえず、何もいってくれなかったのは寂しいけどな!」
丸「仲間なんだから言ってくれよなぁ〜
恩人だしな!!」
仁「チビッ子らしいぜよ
じゃが、欺き方はもう少し勉強しんとなぁ
寂しいのぉ」
柳生「変なこと教えないでくださいね、仁王君。
……寂しいのは私も同じですけれども」
真「飛ぶ鳥跡を遺さずとは言うが、今回ばかりは許せんぞ。
武人らしく正々堂々と出ていけば良いだろう!?」

怒られ、髪をグシャグシャにされ、戻され、少し叩かれ、このんはされるがままだった。
未だに理解が追い付かない。

そしつさらに追い付かなくなる


越「ーー帽子、いつになったら返してくれるの?」

むすっとした顔のルーキーが少し息を切らしながら歩み寄ってきた。

菊「あー!いたにゃー!!」
桃「お?暁来はっけーん!!
つかマムシ前にくんなっ!」
海「あ"ぁ?!指図すんじゃねぇッ!」
大「こらっ!ケンカはやめないか二人とも!」
不「ふふ、なんとか間に合ったみたいだね」
河「勝手にいなくなるなんてショッキィイイングだぜ!!」
手「油断せずに走って正解だったな…越前」

青学のメンバーが越前に続いて入ってきた。

ポカーンとしていれば、越前が口角を上げた。
挑戦的な眼差しを向けて

越「まだまだだね、暁来」

鋭く眩しい笑みだ。
混乱しながらも、膝にのせていた彼の帽子を差し出した。

「……ありがと……勇気もらった
越前くん…」
越「Your welcome.
イギリスいく日は絶対に教えてよ」
「…来るの?くーこー」
越「もちろん」
幸「俺も行くからね」

ちゃんと教えてよ、と二人とも真っ直ぐな目をしていた。
皆大袈裟なのかもしれない。
まだいなくなる訳じゃないのに…

そう口に出そうとしたが、声は出なかった。

ガバリと金色とワインレッドが抱きついてきた。
芥川と向日だ。 
少し痛かったが、幸村が車イスを支えてくれたお陰で転倒することはなかった
芥「また勝手にいなくなるとかイヤだからねー!
まだまだ傷治るまで時間あるC、トランプしよー」
向「クソクソ暁来!!
なんでもいきなり過ぎンだよッ!」

二人ともむくれているが、笑顔だった。

芥川と向日の後ろから呆れたような表情の宍戸と忍足、苦笑ぎみな鳳、静に笑みを浮かべる滝、穏やかな表情の樺地、自信たっぷりの笑みな跡部が近寄ってきた。

宍「ったく、いきなりタックル食らわせるとか激ダサだぜ…
傷大丈夫か?」
忍「怪我人には優しくせんとあかんで
四天宝寺は収集できんかったわ、すまんなぁ」
鳳「大阪からだと難しいですよね…」
滝「ほんっとお子さま組は仲良しだね
…俺たちも、空港に見送り行くから教えてよ?」
跡「お前がここに寄るのはバレバレだ。
日吉と同じようにここで俺様の晴れ舞台を観ていたことも知っているぜ
なぁ?樺地」
樺「…ウス…」

このんはみんなを見た。
何がなんだかわからなくても、自分を見ていてくれた人はこんなにいたのだ。

それが単純に嬉しかった。
あのとき、生きたいと願ってよかった…

「…ぁあもう……、失敗したなぁ……
でも、なんでだろ…」

黙って学園を出ようとしたのは寂しくなるからだった。
ほんの少しでも揺らいでしまいそうで怖かったから…
でも、今は出る前に会えてよかったと思えた。

「幸せ過ぎるの…」

ぽたぽたと頬を伝ってはブレザーやスカートを濡らす涙を止める気はおこらなかった。

いきなり泣き出したこのんに近くにいた者は驚いて心配してきたが、幸せそうに笑って泣いていたため思わず切原が噴き出した。

切「ぶっ…お前器用過ぎるだろ!!
笑いながら泣くって…!」
「わーらーうーなーなのーッ!
とまんないんだから、しかたないのですー!!」
幸「ふふ…、幸せならいいじゃないか
どんなに頑張っても、やっぱりこのんちゃんは泣き虫だね」
「なおったおもったのにー」

言葉とは裏腹に表情は穏やかだ。

痺れを切らした親衛隊員たちがこのんに抱きついてくるまであと17秒……




(このんちゃぁあぁああああんッ!!!!!)
(わ……!)
(跡部様たちずるいですわ!)
(私たちだってこのんちゃんとふれあいたいのにぃ!)
(隊長もずるーぃ!)
(早い者勝ちよ)

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あきゅろす。
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