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わたしが守るの!

入院生活は2週間に及んだ。
その間ちょくちょく部員たちや友人二人に美玲が来て話や勉強の手伝いをしてくれた。

退院の日、治療を行ってくれた医師や看護師たちに見送られ車椅子で病院を出た。
まだ万全ではないため自宅療養を言われている。
帰ったのは木更津家だった。

叔母「いらっしゃい、このんちゃん。
一階の空き部屋がこのんちゃんの部屋だからね。」
淳「空き部屋って…僕の部屋でしょ」
亮「クスクス、空き部屋にかわりないだろ」

軽く言い合っている二人を置いて叔母に部屋へ連れて行かれた。

「あっくんの部屋…つかっていーです?」
叔母「大丈夫大丈夫!
帰ってきたってあんまり使わないし埃が積もるだけよ。
なんなら漁っちゃいなさい。青春のバイブルがあるかもし 淳「このんに変なこと言わないでよ!?」あらあら、怒られちゃったわ」

クスクス笑っている叔母は綺麗だった。
もしかしたら双子の笑いかたは彼女が原点なのかもしれない。

「?青春のバイブル?」

叔母の発言にキョトンとしていれば淳が焦ったように駆け寄ってきた。

淳「母さんの言葉は気にしなくていいから!
僕の部屋の机とかベッド好きに使っていいよ」
亮「ベッド(意味深)」
淳「亮お前もう黙って」

淳は安心安定のツッコミらしい。
むしろ弄られているが。

淳の部屋はシンプルだった。
ルドルフの寮に大体の荷物を持っていっているからかもしれないが、全体的に綺麗な部屋だ。
夏休みの度に来ているため何度かみたことはある。

二人とも今日は休みなためか一緒に遊んでくれる。
某神喰いゲームをマルチで通信プレイしこのんの苦手なミッションを手伝ってくれた。

「あ、終末捕蝕弾射つの」
亮「なんてものをつくってんの?
あ、淳そっちに行った」
淳「僕の方に集まりすぎでしょ
ちょっと逃げるから」
「じゃー、中型持っていくの」
淳「うわっ!いきなりなんか墜ちてきたんだけど!?
中型討伐終了してるし…」
「終末捕蝕弾なの」
亮「ダメージいくつ?」
「じゅーまん」
淳「振り切れてる振り切れてる。
あと大型だけだから集まって」
「アイテムかいしゅーちゅー」
亮「同じく
あ、エリクサーゲット」
淳「ズルッ…じゃなくて助けて
こっちのエリアにもアイテムあるから」
亮「あ、なら行く」 
「らじゃー!」

無事倒し終えハイタッチを交わす二人を淳は疲れたような表情で見ていた。

淳「僕アイテム回収出来なかったんだけど…」
「おつかれなの」

よしよし、と軽く頭を撫でた。
それに苦笑を浮かべながらもありがとう、と返す。

ゲームを止めればちょうど叔母の声がした。
どうやら夕飯ができたみたいだ。

淳「お腹すいたし、ご飯食べにいこうか。
しっかり掴まってね」

そう言って軽々とこのんを抱き上げた。

…本当に、このんは軽かった。
淳はその軽さに恐怖を感じた。

つい先週まで、この小さな身体は死を味わっていたのだ。
しかも、二つの深い傷も未だに抱いている。
桃百合姫華から受けた刺傷に、大好きだった幼馴染み兼師匠に否定されたときの精神的な傷

それでも、腕の中にいる妹分は気丈で、見守っているこっちが怖く思う。
このんを見れば、不思議そうな目をこちらに向けていた。
どーしたの?というふうに

淳「?このんどうかした?」 
「……あっくん泣きそーな顔してるよ」

えっ?と片割れを見れば苦笑された。

亮「情けない顔してるよ
……わからなくもないけどさ…」

このんのぼんやりとした目には、確かに眉を寄せていつものポーカーフェイスが壊れた僕がいた。
亮のいう通り、なんとも情けない顔だ。

僕は目を閉じ軽く深呼吸をしてから開けた。

───……僕が怖がってちゃ駄目だよな…
今度このんの目に写った時は、情けない僕は消えていた。

淳「ごめんね。
お腹すいただろうし、早くいかなきゃなんないのにさ」 
「だいじょーぶ
出発なの?」
淳「うん、母さんに怒られちゃうしね」

抱え直せば三人でリビングに向かった。
叔父がもう来ており、叔母はほとんど料理を並べ終えている。

叔母「遅いわよ
久しぶりだからってあんまりゲームばっかりしちゃダメだからね」
亮「わかってるよ
このんはご飯お粥?」
「おかずたべたらだめー?」
叔母「だいじょーぶ!
このんちゃんが食べれるように油っ気なものはあまりから」
淳「このんはクッションの上に乗ろうか。」
「かおもじクッション!(°▽°)」

(°▽°)の顔文字クッションの上にゆっくり下ろされ乗せられればご満悦し、改めて台の上の料理を見た。海鮮物の刺身に綺麗に色付いた煮物、鮮やかなお浸し、均等な形をした卵焼き、具沢山な味噌汁と栄養も種類わも豊富だ。

「おいしそー!」
叔母「ふふ、たくさんあるから好きなだけ食べてね
亮、淳、お父さんは残したら許さないわよ♪」

叔母の素敵な笑顔に双子と叔父が青ざめたが合掌すればもとに戻った。
パクリと鯛の刺身をわさび醤油に浸けて食べる。
海が近いためか魚は新鮮でその甘味のある白身に顔を緩めた。

叔父「毎回美味しそうに食べるな」
「おいしーの!
合宿もおさしみあったけど、やっぱりあっくんりょっくんのおうちのほーがすき!」
叔母「あら、合宿も刺身が出たの?」
「バイキングなの
おふねも合宿所も生ハム食べたー」
淳「相変わらず、生ハムばっかりだね
他のもちゃんと食べた?」
「うぃ
なめこのおみそしるとー、オクラとー、えーと……いっぱい!」
亮「忘れたんだね
合宿って聞いてたけど青学、立海、氷帝、四天が来てたんだっけ?
六角も誘って欲しかったな…」
淳「ルドルフもね」

双子もやはりテニスが好きなのだ。
様々な中学が来ていたなら試合がたくさんできて楽しかっただろう。

だが、このんは少しだけ二人の学校が来なくてよかったと思っていた。

問題は言わずもがな、桃百合姫華。
彼女の持つ呪いで、その二校も虜になっていたかもしれない。
みんな本意で彼女を好いたわけではないと知っている。

それでも、僅かの間の者もいるがほとんどが虜になった。
この二人が例え絶対にならないと宣言したとしても、確実性はなかっただろう。

それは一生口にしないが……

「うん…
マネージャーしごとなかったら…わたしも一緒にしたかったな…
マネージャーの仕事でよばれたんだけど」

人を惹き付けるようなプレイをする彼らと、一度でも…例え敵わなくても対戦したかった。
実はかなりウズウズしていた。
のこのこ少女もテニスバカですから。

淳「それはキツいなぁ…
おっと…早く食べなきゃ」

叔母が「喋ってもいいけど早く食べなさい」という視線を向けてきたため話すのを止め食事に専念し始めた。
次に手をつけた煮物も、ダシの味が染みていておいしかった。

皆が食事を平らげたのは40分後だった。

ちゃぶ台が片付き、一息ついたとき叔父が真剣な表情でこのんを見た。
それに気づけば無意識に姿勢を正す。

叔父「食後ののんびりしたい時にすまないな…
どうしても聞きたくてね」
「…はい」
叔父「……本当に、イギリスに行くのか?」

双子と叔母の視線がこのんに向いた。

このことが、双子にいつか病室で話した『考えていること』だった。
このんは、しっかりと頷いた。

「はい。
…もう決めたの……
どうしても、夢を叶えるために…いかなきゃいけないから」
 
ずっとイギリスに行きたかった。
だが、それは夢を叶えるための修行場所だから。
このんの夢……それは 

「おとーさんとおかーさんの仕事を継ぐ。
誰にもゆずれない……」

父・真人は旅行会社社長、母・寿羽はパティシエ。
二人ともイギリスに留学し、お互いの仕事についたのだ。

両親と同じ道を辿ったところで、必ずしもその娘であるこのんが同じようになるとは限らない。
二人の娘であっても、結局は違う存在なのだから。

それでも、同じ道を進みたい。
二人が見たものを見て、感じたものを感じて、二人に近づきたいのだ。
二人を越えたいのだ。

叔母「…こうは言いたくないけど…
高校からでもいいんじゃないの?
また中学1年で、これからだっていうのに……」

叔母の言葉は最もだろう。
実際、両親が留学したのは高校から
まだ義務教育を終えてないうえに周りに守られていく時期だ。

まだ早いと、大人である二人は当たり前の結論をつき出す。

だが、このんは譲れなかった。

「…高校からじゃ、だめ。
きっと、揺らいじゃう。
それに…絶対に叶えたい夢だから。
おとーさんとおかーさんが作って守ってきたものを、今度はわたしが守りたいの。
絶対に!わたしが守るの!」

真剣な眼差しをまっすぐ向けた。
日吉に下剋上をするときのような、鋭い目を

しん……と静かになった。

沈黙を破ったのは、叔母だった。

叔母「……それは、誰のために?」

静かで…それでいて真意を探るような声…
このんは瞬きをして、笑った。
そして、堂々と答えて見せた。

「わたしのため!
今度はおとーさんおかーさんに下剋上するの!」

無邪気で、それでいて自信を持って言うこのんに、叔父と叔母は安心したように笑った。
最も、叔母が安心している。

スッと後ろに目を向けて…

「(……よかったわね、寿羽…
このんちゃんは、あなたたちが残したモノを足枷だなんて思ってないみたいよ
いきなりなのは、あなたと同じで困っちゃうけど…ね)」

幸せそうに寄り添い合う妹とその旦那は、なぜか柔らかく笑った気がした。

亮と淳はほっとしたように笑い合う。 

亮「頑固なのは相変わらずだよね、ホント」
淳「無茶っぷりには呆れるけど」
「てへぺろ」
淳「……うん、可愛いけどね」

反省しなさい、頬を引っ張る。
このんが淳の腕に噛みつくまであと2秒……


(ガブッ)
(痛い痛い痛い痛い痛いッ!!!!!)
(ぬふふーー(満足))
(……このん、離してあげて?)

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