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みつけてないの

その日は曇天だった。
今にも泣き出しそうな空に、自分のようだと重ねる。


父と母の葬式に、このんはいた。

二人の亡骸は日吉家と二人の会社員の社員たち、存外公館の手助けによって外国から日本に帰ってこれた。

死因は、ドライブ中に起きた交通事故。
現地の穏やかな田舎道を走っていたところ、飛び出てきたネコを避けようとして車をスリップさせ、そのまま崖から墜ちてしまったらしい。
なんとも、優しい二人のやりそうなことだと父と母の秘書は泣きながら伝えてくれたが、それはシニガミの隠蔽であることをこのんは知っている。

自分のために、『もう一人の娘』を止めるために文字通り二人は命を懸けた。

車椅子に乗って必要な時間分の点滴をした
状態で式には来ている。
車椅子は従兄弟二人が交替で押してくれた。

淳「……崖からの転落をした事故だけど、遺体の外傷はあまりひどくないらしいよ。」

学生服に身を包み、今押してくれている淳は言う。
氷帝はベージュのブレザーなためこのんが着ている服は黒のシンプルなワンピースだ。

黙って聞きてから「そう…」と小さく応えた。

式場でしばらくお経を聞き、話を聞いたあと花を添える時間になった。
実子であるこのんが先に入れることになる。
淳に代わって亮がおす。

近づくにつれて見えてきた二人は、夢の中の二人だった。
穏やかな表情で眠る二人は不謹慎にも幸せそうにみえる。

実際、事故で見つかった時父と母は寄り添っていたそうだ。

二人の棺に、花を添える。

「……幸せだった…?わたしが生まれて…
わたしは幸せだったよ……」

喋る度に痛みは響くが、入院しているときより流暢に言葉を繋ぐ。
ふいに目に入ったのは、二人のそばにあるあまり上手とは言えない人形。
小さな時、二人のためにと日吉に徹夜を止められながら作った二人の人形。

父は母の、母は父の人形を持っている。

しばらく流れてなかった雫が、頬を伝う。

「ッ…、おとーさん、おかーさん……生んで…くれてありがとっ……
あいしてくれて、ありがとぉッ……!
ぜったいっ…ぜったいしあわせ、なるから…!
おとーさんおかーさんも…しあわせ、なって……ッ」
亮「……このん……」
「ゆめかなえるから……ぜんぶ終わらせるからッ…
みてて…」

滑り落ちるように車椅子から降り、そっと二人の手を握った。
冷たいはずなのに、このんには温かく感じた。
ゆっくり手を離そうとしたその時……   

誰かが、頭を撫でてくれた気がした。

『またね…このん』

優しい、優しい二人の声だった。
このんは涙を脱ぐって、笑って見せた。

「また、ね……!
おとーさん、おかーさん…」

今度こそ、手を離した。


[淳side]

僕と亮にはほんの少し霊感らしきものがあった。
毎回見えるわけじゃないし、確証が持てるようなものじゃなかったから二人だけが知るだけにした。
言いふらす必要なんてないし、そんなの周りからみれば変人だろうからね。

何故いきなりそんなことを話し出したかというと……
僕と亮の可愛い妹分であるこのんが二人の手を握ったとき…、見たのだ

このんの親である真人さんと寿羽さんが、あの子を抱き締めて頭を撫でている姿を。

優しい表情で、愛しそうな表情でこのんを見て『またね…、このん』と言っているのを。
それから僕を見た。

いや、僕たち双子を見ていた。

『このんを、見守って上げてね…。
亮くん淳くん……』

微笑む二人は幸せそうだ。
僕は席から立って亮の近くに寄った。
やっぱり亮も気づいていたようで、僕をみる。

亮/淳「「僕たちで支えます」」

言うことも、やっぱり同じ。
真人さんと寿羽さんは安心してくれた。
もしかしたら、このんが病院にいるときも、側にいたのかもしれない…なんて考えた。

ふと、二人が違う方を見た。
なんだろうかと視線の先を追えば、情けない顔をしたあいつ。

『…ごめんね…、若君……』

そう言って、二人は消えた。
見えなくなっただけかもしれないが、恐らくもういない。

だから、その言葉の意味は一生わからない。

何故、二人は日吉に謝ったのだろう…
疑問を抱えたまま、僕と亮はこのんを車椅子に乗せてからそこから去った。


[淳side end]




式は終わり、二人の亡骸は火葬された。
二人の骨は壺に入れられこのんの腕の中にある。

日本の自分たちの墓に入りたいというのを手紙に残していたため、父方の家族の墓に骨壺をおさめた。
毎年何度か清掃や墓参りに来ていたため見慣れた場所だった。

それでも、新しく刻まれた二人の名前になれるにはかなり時間が入りそうだ。

しばらく手を合わせてから空を見上げた。
式中は雨が降っていたが、今は晴れ、夕陽が優しくこのんたちを染める。

帰ろう、と言われ頷いた。

きた道を引き返すとき、彼はいた。
このんを見て、戸惑いを浮かべるがこのんが彼を見ることはなかった。

だが、一言だけ告げた。

「ーーかくれんぼ、終わってないよ」

そのまま通りすぎる姿を、彼はただ呆然と見送った。
彼がその場から動けるようになるまで、あと6分…




(二人に問われたこのんは悲しそうに小さく笑った)
(みつけてないの、わたしが)

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あきゅろす。
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