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おえてないの
このんが目が覚めたのは翌日の日が上った10時頃だった。
服を見れば昨日と変わっているため、恐らく深い眠りについていた自分を起こさないように木更兄弟の母が替えてくれたのだろう。
身体も綺麗にして貰っている。

まだ誰もいないため、しばらくすれば暇になった。

少し顔を動かした。
ふと、横に折り紙のセットが置いてあった。
これも従兄弟の母の厚意だろう。

ゆっくり手を伸ばして水色の折り紙を取り出した。

いつも作るより遅くなったが何とか綺麗に花を折った。
薔薇の花だ。
何となく、氷帝テニス部を思い出し笑みがこぼれる。

それからは青、オレンジ、黄と黄緑、赤で花を折った。
折った作品は近くのテーブルに並べて置く。

鶴を折ってもよかったのだが、すぐにできて暇なため少し難しい花で時間を潰したのだった。

全ての花を作り終えたのは昼過ぎ。

今日は土曜日なため午前練だけだったのか青学の部員たちが来てくれた。
不二や大石は気遣いか花とくだものを持ってきている。

不「どういう花が好きかわからなかったから季節の花のスノードロップにしたよ。
花言葉もいいしね。」
「……、きぼう……」
不「あ、知ってるんだ。
あと『逆境の中の希望』とも言うよ。
花好き?」
「…、あい。
いっぱい、すき…なの」

花瓶に飾られたスノードロップを嬉しそうにながめる。

大「俺からはこれ。
食べれるようだったら剥いて貰ってね
苦手なものは他の人にあげてもいいから」
「ありがとー…
…おいしそ……」

ブドウや林檎、桃、メロン、オレンジなどが入った篭は真っ白な部屋では色鮮やかに見える。
ふと越前がテーブルの上のものに気づいたのか「あ、」と漏らした。

手「どうした?越前」
越「これ…、もしかしてユニの色でつくってんの?」

越前が手にしたのは自分たちのジャージと同じ花。

「…『シネラニア』……たねんそー…
はなことば…は…『快活』」
越「シネラニア…?」
「……サイネリア……わかる?」

ごそごそと枕元から花図鑑を出し、パラパラとめくった。
多年草のページで見つけたのか見せる。

菊「あ!よく学校の花壇に咲いてるやつじゃん!」
河「ピンクは知ってるけど、青もあるんだね」

だいたいが知っていたためか納得したように笑った。

「青…き、れー
……よく、家さく…の」

家、というのは恐らく日吉家だろう。
皆なんとも言えなくなった。
が、すぐに越前がその空気を絶つ。

カバンから自分のキャップを取り出したからだ。

越「これ、次は落とさないでよ」

そう笑って頭に被せた。
このんは目を丸くしてキャップを掴む。

「……やくそく、終わって…」
越「入院してる間持ってていーから」
桃「〜ったく!
素直じゃねーな、素直じゃねーよ!」
越「ちょっ…桃先輩っ!?」

焦れったいとばかりに桃城がそう声を上げれば越前の肩に腕を回す。
それには越前も離れようと暴れるが力の差で結局捕まったままになる。

きょとんとして二人を交互に見ていたこのんにクスクスと不二が笑って小さな声で告げる。

不「要するに、早く治れっていう越前からのお見舞い品なんだよ。
このんちゃんが好きそうな小物や御菓子悩んでたみたいだけど……
越前から帽子借りた時嬉しかったでしょ?」
「?あい。」
不「笑ってたからね…
越前にとって、このんちゃんへの一番のお見舞い品は帽子なんじゃないかって思ったんじゃないかな…
嬉しい?」

不二は曖昧に言葉を伝えることが多いが、こんな時は直球だ。

不二の言葉にぼんやりと手元のキャップをみる。
某有名スポーツメーカーの白いキャップ
よく被っているところを見ていたから、大切なものなのかもしれない。
それを、あのとき貸してもらった。

日吉を倒すと意気込んでいた、あのときに。

その約束は、恐らく果たされたのだろう。

だから、これは新しい約束…
昨日立海や四天宝寺の皆と約束したように

「…うれしー…
うれしくない…わけ、ないの……」
キャップを大事そうに撫でた。

自分が元気になるのを皆が待っててくれる…
それがすごく嬉しい。
だからふにゃふにゃと笑っていれば、越前に緩みすぎと苦笑されてしまった。

でも気にしない。
うれしいもん

「やさ、しーひと…いっぱい
…げんき、なったら…ちゃ、んと……かえす、よ」
越「手渡し以外は受け取らないから」
「………うぃ」
海「……間が空かなかったか?」
乾「弱冠戸惑った確率94%」
「……いぬいさん、しー」

うだうだになったが結局手渡しでかえす約束をすることになった。
それから他愛ない話をしながらシネラニアの折り方を越前、不二、手塚にレクチャーしたり、今の勉強の範囲を聞いてみたりした。 

青学と氷帝は外国語以外の教科書が一緒のようだ。
進みようは違うかもしれないが、あまり変わらなかったため苦手な数学や理科について勉強が始まり今に至る。

ふいにノックの音が聞こえた。

「?どー、ぞ」
向「おっ邪魔するぜー!」
芥「久しぶりー!」

おこさまトリオ二人が笑って入ってきた。
うしろには跡部、忍足、樺地、滝、宍戸、鳳も控えているようで、宍戸の「早く入れ!」の声がする。

やはり、日吉はいなかった。

来ないとわかっていたがこのんはほんの少し寂しく感じる。

「…ぶかつ…おわっ…た…、です…?」
跡「あーん?
ハッ!当たり前だ。
と言っても、榊監督の厚意で少し早めに切り上げたがな。」
忍「このおこさま組がソワソワしててなぁ
気分悪ない?」
「だいじょー、ぶ。
……ちょっ…と……おはなし、しにくいけ…ど。」
滝「無理は駄目だからね」

ふわりと笑った滝に優しく頭を撫でられた。
目を細めて気持ちよさそうに頷けば氷帝メンバーたちはどこか安堵を浮かべている。
結局のところ、皆心配していたのだ。

跡部がスタスタと近寄ってきた。
その手には、綺麗な青い薔薇のブリザードフラワー。

跡「俺様からの見舞品だ。
退院後も家に飾りな」
「……こんな、まっさお…な薔薇……初め…て、みたの……。
……きれー……」

アンティーク調の装飾が施されたガラスケースに入ったそれをそっと受け取った。
キラキラと光ってみえるそれは宝石のようだ。

青い薔薇の花言葉が頭に過った。

「……『奇跡』」
宍「奇跡…?何がだ?」

花言葉をあまり知らないものたちは少女の呟きに疑問符を浮かべる。
このんは越前たちにして見せたように花図鑑を取り出して薔薇のページを出す。

赤、黄、白、ピンク等々が色鮮やかに飾るページにひときわ大きく写真が載り、説明文の長い青薔薇があった。
図鑑の写真の青薔薇よりこっちの方が本物に感じる。

乾「青い薔薇は元々、自然界に存在しないものだ。
作り出すには人工的なものしかなく、どれも不完全な色の青薔薇ばかりだったようだな…
故にその時の青薔薇の花言葉は『不可能』。
真の青い薔薇は作れないのではといわれた。
だが、研究に研究を重ねて十四年の歳月を経てようやく真の青薔薇というものができた。
『奇跡』という花言葉はまさに、青薔薇を作り上げることができたことそのものが奇跡ということなのだろうな。」

奇跡の花の青薔薇。
跡部はなぜこの花を見舞品に選んだのだろうか。
キングを見上げれば、彼はニヤリと笑った。

跡「まだ終わってねぇ…
早く治して奇跡を起こしてみな」

主語はない。
だが、跡部の言葉の意味は理解できた。

だから、嬉しかった。

彼はまだ、待っててくれているのだ。
自分は勿論、もう一人を。

だから…このんに託してくれた。
青い薔薇はそういう意味でもあるのだろう。何もかもを見透かしているようなアイスブルーの瞳をじっと見上げ、小さいながらもしっかりと頷いた。
そして、テーブルにあった蒼の折り紙製の薔薇を差し出した。

「こんな、に…きれー…じゃないけ、ど……
……わたし、まだ……おえ、てないの……です」
跡「そう思ってるならいい。
……ふっ、器用なことするな。」

跡部は満足げな笑みを浮かべながら紙の蒼薔薇を受け取った。

それを見て騒ぎ出したおこさま組と再び折り紙教室が始まるまであと5秒…




(あー!跡部ずりぃCー!)
(クソクソッ!俺も見舞品持ってきたのによ!)
(…いっしょ……作る、です?)
((おう!/うん!))

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あきゅろす。
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